世界中を魅了した人気歌手の生涯とは『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』 ショーン・ペン版『男はつらいよ』『フラッグ・デイ 父を想う日』【映画コラム】

2022年12月23日 / 08:00

『フラッグ・デイ 父を想う日』(12月23日公開)

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 1992年、アメリカ最大級の偽札事件の犯人であるジョン・ボーゲルが、裁判を前にして逃亡した。ジョンは巨額の偽札を高度な技術で製造したが、それを知った娘のジェニファーは、父に対して複雑な思いを抱く。

 ジャーナリストのジェニファー・ボーゲル(訳ありの彼女を受け入れ、ジャーナリストへの道を開いた大学が素晴らしい)が、2005年に発表した回顧録を原作に、愛する父が実は犯罪者だったと知った娘の葛藤と、切るに切れない家族の絆を、実話を基に描く。

 描かれる時代は、1975、81、85、92年だが、ジェニファーの回想ということで、あえて時系列を崩し、過去と現在を交錯させながら描いている。

 ショーン・ペンが初めて自身の監督作に出演し、女優のロビン・ライトとの間に産まれた娘のディランと息子のホッパーと親子役を演じた。そういう意味では、究極の家族映画ともいえる。

 父の正体を知り、苦悩しながらも、弱さや矛盾に満ちた父に愛情を抱く娘をディランが熱演している。こういう家族共演の映画を見るたびに、一体どんな気持ちで演じているのだろうという興味が湧く。

 タイトルは、アメリカ国旗制定記念日のことで、この日はジョンの誕生日でもあるのだが、劇中で「フラッグ・デイに生まれた男はどうしょうもない駄目男」というせりふもあった。

 というわけで、この映画は、いわゆる毒親、駄目おやじの話なのだが、このジョンという男、調子がよくてうそつきなのにどこか憎めない。変な話、『男はつらいよ』の寅さんを思わせるところがある。

 たとえ、困りごとがあっても、何か問題を抱えても、切るに切れない家族という存在は、年を取るほど重くなる。

 「家族とはやっかいだけどいとおしい」、そして、悲劇と喜劇は常に紙一重だということ。これは山田洋次監督が、『男はつらいよ』シリーズをはじめとする、自作の中で一貫して語ってきたことだ。それがこの映画にも当てはまるところがあって、少々驚いた。

(田中雄二)

 

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