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【映画コラム】震災やコロナ禍での映画や映画館に対する思いを反映させた『浜の朝日の嘘つきどもと』

 福島県南相馬市に実在する映画館を舞台に、映画館の存続に奔走する一人の女性(高畑充希)の姿を描いたタナダユキ監督のオリジナル脚本作『浜の朝日の嘘つきどもと』が9月10日から公開される。

(C)2021「浜の朝日と嘘つきどもと」製作委員会

 100年近くの間、地元住民の思い出を数多く育んできた映画館・朝日座。だが時代の流れには逆らえず、支配人の森田保造(柳家喬太郎)は廃館の決意を固める。

 そこへ、東京からやってきた茂木莉子(もぎ・りこ)を名乗る若い女性(高畑)が現れる。彼女は映画好きの亡き恩師(大久保佳代子)の願いをかなえるため、朝日座を立て直すというのだが…。

 山田洋次監督の『キネマの神様』、松本壮史監督の『サマーフィルムにのって』に続いて、映画や映画館への愛を描いた映画がまた登場した。

 以前、タナダ監督にインタビューをしたときに、その言葉の端々に、映画への愛や映画の力を信じる心が感じられた。その意味では、この映画は震災やコロナ禍での映画や映画館に対する、タナダ監督自身の思いを反映させたものだと言ってもいいだろう。また、高畑が好演する主人公の莉子は監督の分身なのかもしれない。

 そういえば、インタビュー時に、タナダ監督が「増村保造の映画が好き」と言っていたことを思い出した。だから映画館主の名前も“保造”なのか。もぎ・りこは“もぎり”のもじりだし…。ほかにも上映作品の看板やせりふの中に、映画に関するネタがちりばめられている。

 劇中に登場する映画は、D・W・グリフィス監督の『東への道』(1920)、バスター・キートン監督・主演の『文化生活一週間/キートンのマイホーム』(1920)、増村保造監督の『青空娘』(57)、瀬川昌治監督の『喜劇女の泣きどころ』(75)、そしてホアン・シー監督の『台北暮色』(17)。ここにもタナダ監督の趣味が反映されている。

 ところで、この映画は、2020年に放送された福島中央テレビ開局50周年記念のテレビドラマ版の“前日談”に当たるというので、早速ドラマの方も見てみたら、対で見た方がさらに面白いと感じた。これなら2本立てで上映するのもありだと思う。

 ちなみに朝日座で上映した2本立ては、『青空娘』と「喜劇女の泣きどころ』、『大誘拐』(91)と『グラン・トリノ』(08)、『永遠と一日』(98)と『北京原人』(97)、『浮雲』(55)と『放浪記』(62)、『ベルリン天使の詩』(87)と『天使にラブソングを…』(92)…。テレビ版では、『生きる』(52)と「素晴らしき哉、人生!』(46)が上映されていた。

 これらの映画を、ぜひ実際の朝日座で見てみたいと思わせるところが、この映画の真骨頂だ。
(田中雄二)