エンターテインメント・ウェブマガジン
続いて、実際にあった高齢窃盗集団による事件を描いた『キング・オブ・シーヴズ』。かつて「泥棒王(タイトルの意味)」と呼ばれたブライアン(マイケル・ケイン)は⼀度は裏社会から引退し、愛する妻と平穏な日々を過ごしていたが、妻の死後、知人の若者バジル(チャーリー・コックス)から、ロンドン随⼀の宝飾店「ハットンガーデン」の貸金庫窃盗計画を持ちかけられる。
監督は『博士と彼女のセオリー』(14)のジェームズ・マーシュ。名優ケインのほか、ジム・ブロードベント、トム・コートネイ、レイ・ウィンストン、ポール・ホワイトハウス、マイケル・ガンボンという、いずれ劣らぬ面々がチームを組むのが見どころ。おのおのの若き日の姿もちらっと映る。
ただ、前半は「いい金庫を見ると元気が出る」とか、防犯カメラの多さを見たブライアンが「プライバシーはないのか」と憤る、といった面白いせりふが飛び交い、ユーモアを交えながら、なかなか快調に進むのだが、後半は仲間割れを描いて失速する。
痛快な犯罪物を期待したが、むしろ、シリアスで苦いものになっていた。同じくケインが主演した同種の『ジーサンズ はじめての強盗』(17)が陽なら、こちらは陰という感じがしたが、実話の映画化なので、いろいろと制約もあったのだろうと推察する。
昔の犯罪映画を思わせるジャズ風の音楽が聴きもの。また「ハッピー・トゥゲザー」(タートルズ)や「パーティーズ・オーバー」(シャーリー・バッシー)といった既製曲が、効果的に使われているのも面白い。(田中雄二)