【映画コラム】小品の佳作を2本『search サーチ』と『ライ麦畑で出会ったら』

2018年10月27日 / 17:23

 続いて、1969年の米ペンシルベニア州を舞台にした『ライ麦畑で出会ったら』。

 孤独な寮生活を送る高校生のジェイミー(アレックス・ウルフ)は、J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を劇化することを思いつき、本人の許可を得るため、演劇サークルで知り合ったディーディー(ステファニア・オーウェン)と共に、隠せい生活を送るサリンジャーの居所を探す旅に出る。

 本作は、兄をベトナム戦争で亡くし、心に傷を持つ気弱な高校生と、彼に好意を寄せる少女の、小さな旅を描いているのだが、ニューシネマをほうふつとさせるような飾り気のない映像や、素直な人物描写が好ましく映り、旅を続けるジェイミーとディーディーがいとおしく見えてくる。

 ところで、本作はジェームズ・サドウィズ監督の自伝的な要素が強いという。つまり彼は実際にサリンジャーと会ったことがあるのだ。

 それを知って思い出したのが『フィールド・オブ・ドリームス』(89)である。あの映画で、主人公のレイ(ケビン・コスナー)が見付ける隠せいした作家は、架空の人物になっていたが、W・P・キンセラが書いた原作の『シューレス・ジョー』では、レイが会いに行く作家はサリンジャーなのである。映画はサリンジャーの了解が得られず、苦肉の策として架空の人物を創造したのだという。

 つまり、本作は『フィールド・オブ・ドリームス』がかなえられなかった夢をかなえたことになる。サリンジャー役のクリス・クーパーも、“多分サリンジャーはこういう人”と感じさせる好演を見せる。このように、本作を通じて、映画と映画がつながる楽しみを味わうこともできるのだ。
(田中雄二)

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