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ニューヨークタイムズが「見たことのないリチャード・ギアにのけぞった」と評したブラックコメディー映画『嘘はフィクサーのはじまり』が10月27日から公開される。
舞台はニューヨーク。しがないフィクサー(仲介者)のノーマン・オッペンハイマー(ギア)は、ユダヤ人の上流社会に食い込むため、小さなうそを積み重ねながら人脈を広げてきた。
ある日、イスラエルの政治家エシェル(リオル・アシュケナージ)に近づいたノーマンは、成り行きから最高級の靴をエシェルにプレゼントする羽目に陥る。3年後、イスラエルの首相となったエシェルは、祝賀会でのノーマンとの再会を喜び、友情を再確認。エシェルのお墨付きを得たノーマンは大物たちの間で暗躍し始める。ところが、ノーマンのおせっかいが思わぬ波紋を呼ぶことに…。
本作は、ずる賢い金の亡者なとど言われ続けた迫害の歴史の中で、生き残るために強い同族ネットワークを築き上げ、今や政治・経済・芸能界の中心を担う存在となった、ユダヤ人社会の知られざる仕組みを、笑いと皮肉の中に描いている。シェークスピアの『ベニスの商人』の現代版の趣がある。
ところで、実はユダヤ人が牛耳るハリウッドでは、ユダヤ人問題を正面から描くことはタブーとされてきた。例えば、第2次大戦直後の1947年に、ユダヤ人問題を扱ったエリア・カザン監督の『紳士協定』とエドワード・ドミトリク監督の『十字砲火』が公開されたが、どちらも物議を醸し、後にカザンとドミトリクは赤狩りの標的となった。両作は、当時の占領軍の政策によって日本では公開されず、80年代後半になってようやく公開されたといういわくもある。
その後、ユダヤ系のウディ・アレンやメル・ブルックスがジョークの中にまぶして描いてきた微妙な問題を、本作のように、深く鋭く描く作品が登場してきたのは時代の変化故か。もちろんこうした映画が製作されたことは、トランプ大統領のイスラエル寄りの政策とも無縁ではあるまい。