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もう一本は、『キャラクター 孤独な人の肖像』(97)でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したオランダのマイケ・ファン・ディムが監督した『素敵なサプライズ ブリュッセルの奇妙な代理店』。
子どものころに富豪の父を事故で亡くして以来、感情を失ったヤーコブ(イェルン・ファン・コーニンスブルッヘ)。やがて母も亡くした彼は念願だった自殺を決行しようとするが、そのたびに邪魔が入ってなかなかうまくいかない。
そんな中、ヤーコブはブリュッセルにある「あの世行きを手伝う」謎の代理店を発見し、契約するが、そこでアンネ(ジョルジナ・フェルバーン)という美女と出会ってしまう。
自殺志願の無垢(むく)な金持ちの主人公が、魅力的な女性と出会って生の喜びを見付けるが…という皮肉なアイデアは、フランス映画『カトマンズの男』(65)の焼き直しにも見えるが、自殺志願者に協力する解約不可能な代理店が存在するという発想は斬新で面白い。
この映画は、死を意識することによって、逆に感情や精気を取り戻していくヤーコブの心の変化とアンネとの奇妙な関係の推移が見どころとなる。
ブラックな笑いの中で、死を通して生を考えるというシニカルな視点、ハリウッド映画とは一線を画す風変わりな作風が両作の魅力になっている。このあたり、あえてハリウッドに背を向けて映画を撮っている両監督の意地を見る思いがする。(田中雄二)