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【芸能コラム】中村倫也 変幻自在に進化し続ける俳優 「半分、青い。」「崖っぷちホテル!」『孤狼の血』

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「半分、青い。」。このドラマで、漫画家を目指して上京したヒロイン、楡野鈴愛(永野芽郁)の恋の相手として登場したのが、大学生の朝井正人だ。独特の“ゆるふわ”な雰囲気で女性たちを魅了。鈴愛も彼に恋をし、何度かデートを重ねて思いを打ち明けたものの、「そんなつもりじゃなかった」とあえなく失恋…。

「半分、青い。」朝井正人役の中村倫也

 ふわっとした雰囲気で、捉えどころのない人物。身近にいそうな気もするが、本心が見えないだけに演じるのは難しい。そんなキャラクターを存在感たっぷりに演じるのが中村倫也。2005年公開の『七人の弔』でデビューして以来、数々の映画やテレビドラマで活躍してきた実力派だ。

 中村は正人役を演じる難しさについて、当サイトの「半分、青い。」出演者インタビューで次のように語っている。

 「やり過ぎると興味を引き付ける要素が減るし、やらな過ぎると、そもそも興味を持ってもらえないし…」

 だが、その芝居のうまさは、見ている視聴者が一番理解しているに違いない。

 とはいえ、その見事な演技も、俳優・中村倫也の一面に過ぎない。破産寸前の名門ホテルの従業員たちの奮闘を描いたコメディー「崖っぷちホテル!」(日本テレビ系日曜午後10時半放送中)では、競艇狂いの副料理長、江口竜二に扮(ふん)して、より男っぽい芝居を披露している。

 新人パティシエの鳳来ハル(浜辺美波)にその座を奪われた元総料理長という役柄で、ふてくされながらも経験の少ないハルをサポートするキリッとした姿は、いかにも元総料理長といったたたずまいを見せる。浜辺とのテンポのいい掛け合いも見どころだ。

 そして、さらに振り切った役を演じているのが、現在公開中の『孤狼の血』だ。昭和63年の広島を舞台に、警察を巻き込んだやくざ同士の抗争を描いたこの作品で中村が演じたのは、下っ端やくざの永川恭二。

 初登場の場面から、敵対する組のやくざにけんかを売り、相手の耳をかみちぎるという凶暴さを発揮。目を血走らせた風貌と併せて、強烈な印象を残す。知らずに見たら、「半分、青い。」と『孤狼の血』の中村が、同じ俳優とは気付かない人もいるに違いない。

 ふわっとした大学生から狂犬のようなやくざまで。変幻自在な中村の芝居には、毎回うならされる。その芝居はどこから生まれたのか。そんな疑問を解くヒントになりそうな言葉が、前述したインタビューにある。それは、「キャリアを積んで、役者としてはどのように変化しましたか」という問いに対する次の答えだ。

 「若い頃は人生経験も、表現者としてのパターンもないので、一本やりで『いいやりつけたぜ!』ってなるけど、本当は『これだ!』というのはそうそうなくて、パターンは無数にあるし、正解も不正解もなくて、大事なのは相手役に何を渡していけるか?ということ」

 これはすなわち、経験を積むにつれ、芝居が柔軟かつ多様になっていったという意味だろう。その言葉通り、近年の中村の振り幅の大きさは圧倒的だ。前述した作品の他、「闇金ウシジマくんSeason3」(16)の悪意に満ちた詐欺師役、「スーパーサラリーマン左江内氏」(17)でのとぼけた警官役…。この他、huluで配信中の「ミス・シャーロック」でも、滝藤賢一と見事な掛け合いを見せている。

 作品ごとに進化を続け、変幻自在な芝居を披露する中村倫也。彼が今後、どのような姿を見せてくれるのか。期待は高まる一方だ。(井上健一)

(C)2018「孤狼の血」製作委員会