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【芸能コラム】深田恭子&松山ケンイチ さまざまな問題を程よい口当たりで描く配役の妙 「隣の家族は青く見える」

(C)フジテレビ

 深田恭子と松山ケンイチ演じる夫婦のリアルな“妊活”の描写が話題を集めている「隣の家族は青く見える」(フジテレビ系毎週木曜午後10時放送)。だが、本作の見どころはそれだけではない。妊活に加え、リストラや同性カップルといった、今の世の中で避けては通れないさまざまな問題と向き合い、考えさせつつ、温かなタッチでつづっている。その手際の良さには、毎回うならされる。

 舞台は、複数の世帯が暮らす集合住宅“コーポラティブハウス”。筆者も初めて知ったのだが、これは、各人が同じ敷地内で設計の異なる個別の住宅に暮らす居住形式で、マンションと一戸建ての中間といった印象だ。

 主な登場人物は、前述の妊活夫婦のほか、父親がリストラに遭ったことをひた隠しにする家族、子どもをつくらない約束で婚約したカップル、素性を隠した男性同士のカップルという4組の人々。穏やかに始まった共同生活の中で、徐々に各家庭の事情が明らかになるとともに、波紋が広がっていく。

 世の中で注目を集めるさまざまな問題を、各家庭に当てはめた意欲作だが、それだけに中途半端に扱えば批判されかねない。だが本作では、丁寧な妊活の描写に象徴されるように、それぞれの問題と真摯(しんし)に向き合おうとする作り手の姿勢が伝わってくる。

 とはいえ、真面目なだけではゴールデンタイムの連ドラとしては魅力に欠ける。それを補っているのが、ハートフルなホームドラマというスタイルだ。世の中にある問題をホームドラマという形式で口当たり良く料理して、敷居を低くする。本作から垣間見えるそんなバランス感覚は、ドラマ全体の心地よさにつながっている。

 その狙いが端的に表れているのが、絶妙な配役と、それぞれの役を演じる俳優たちの好演だ。深田と松山が演じる五十嵐夫妻を例に取れば、妻・奈々は、楽天的でのんびりした夫・大器に励まされつつ妊活に取り組み、時にその無頓着さを怒ってみせる。

 だが、おっとりとした深田と、三枚目的な松山の芝居が醸し出す空気感は、深刻な場面も温かな雰囲気で包み込み、嫌な印象を与えない。それは、同性カップルの広瀬渉(眞島秀和)と青木朔(北村匠海)も同様で、ゲイであることを隠そうとして悩む渉の深刻さを、オープンな朔の屈託のない表情が和らげている。

 この配役が生きた好例が、2月1日に放送された第4話のクライマックスとなる住民会議の場面。渉と朔が同性愛者であることが明らかになったことから、予定していた小宮山深雪(真飛聖)の娘の誕生パーティーは中止され、その件に関する話し合いが開かれる。

 同性愛者を受け入れられず、怒りを爆発させる深雪に対して、「人は誰でも自分が望む幸せを手に入れる権利がある」と正論をぶつける奈々。これで重くなった場の空気を一変させたのが朔。突然、後ろから大器に抱き付いたのだ。「奈々の言葉に感動して、奈々の代わりに大器を抱きしめた」と語る朔の無邪気な行動で空気が和み、その場は一段落する。

 簡単に答えの出ない問題だが、かといって重苦しい空気を引きずったままでは終われない。難しいクライマックスを、屈託のない朔と穏やかな大器のキャラクターを生かして締めくくった鮮やかな一幕だった。そんな絶妙なバランス感覚で数々の問題と向き合う本作が、最終的にどのような結末にたどり着くのか。今後の展開に注目していきたい。(井上健一)