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綾野剛、二階堂ふみ、柳楽優弥ら若手実力派キャストが集結した「フランケンシュタインの恋」(日本テレビ系毎週日曜午後10時半から放送中)。100年以上にわたって森の中でひっそりと生きてきた“怪物”と、偶然出会った人間の女性の恋を描いたファンタジックなラブストーリーだ。
『美女と野獣』や『キングコング』など、古今東西、異形の者が人間の女性と恋に落ちる物語は無数に生み出されてきた。本作でも過去の名作を踏まえた描写が見られるが、中でも、綾野演じる怪物(劇中では“深志研”と命名される)の“純粋無垢(むく)だが好きな相手に触れることができない”というキャラクターなどから、ティム・バートン監督の『シザーハンズ』(90)を連想した者も多いに違いない。『シザーハンズ』からの影響については、インタビューなどで綾野自身も証言している。
そしてもう一つ、ドラマ本編で目につくのが“キノコ”だ。特殊な菌によって死者をよみがえらせることで生まれた怪物は、体から菌を放出し、キノコを生えさせる能力を持つなど、キノコが大きく扱われている。
だが、キノコというモチーフは、『シザーハンズ』にも、そもそもの元ネタである『フランケンシュタイン』にもリンクしない。すぐに思い浮かぶのは、1963年の東宝映画『マタンゴ』だ。ただし、『マタンゴ』は、孤島に漂着した若者グループが、島に生えていたキノコを口にしたことから1人ずつ怪物に変貌していくホラー映画であり、「フランケンシュタインの恋」からはやや縁遠い。とはいえ、ここから同じ東宝がその数年前に製作した「変身人間シリーズ」を連想するのは、そう飛躍した話ではないだろう。
「変身人間シリーズ」とは、科学や欲望の犠牲となり、怪物化した人間が繰り返す犯罪を描いた『美女と液体人間』(58)、『電送人間』(60)、『ガス人間第1号』(60)の三本を指す。(うち2作は、『ゴジラ』(54)を生んだ本多猪四郎監督&円谷英二特技監督の黄金コンビ作)。いずれもSFスリラーに分類されるが、その中で最もラブストーリーの色合いが濃いのが『ガス人間第1号』だ。
東京都内で次々と銀行の金庫から現金が強奪される怪事件が発生。それは、体を自由にガス化できる“ガス人間”の仕業だった。ガス人間は手に入れた金で、思いを寄せる日本舞踊の家元、藤千代に新作発表会を開かせようとするが…。
警察との攻防を軸にすえつつ、ガス人間と藤千代の悲劇的な愛が美しい日本舞踊を交えて情感豊かに描かれる。物語自体はともかく、本人の意志に反して怪物化し、精神を集中することで能力を発揮するガス人間のキャラクターは「フランケンシュタインの恋」に通じるものがある。
ちなみに、ヒロインの藤千代を演じているのは、現在「やすらぎの郷」(テレビ朝日系)に出演中の八千草薫。当時20代の八千草の気品あふれるりんとした美しさも素晴らしい。
もちろん、これが直接「フランケンシュタインの恋」に影響を与えたかどうかは分からない。だが、「変身人間シリーズ」は、いずれもアメリカで劇場公開もしくはテレビ放送されており、オタクとして有名なバートンが見た可能性は高い。それが何らかの形で『シザーハンズ』に影響を与え、巡り巡って「フランケンシュタインの恋」で、日本に回帰した…。そんな可能性を想像しながら見るのも、ドラマの一つの楽しみ方ではないだろうか。(井上健一)