【映画コラム】孤独な女性の願望を具体化した『とらわれて夏』

2014年5月3日 / 18:01

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 シングルマザーと思春期の息子が脱獄犯と出会い体験した、晩夏の5日間を描いた『とらわれて夏』が1日から公開された。

 舞台は1987年のアメリカ東部の小さな町。9月初めのレイバーデー(労働者の日)を控えたある日、夫に去られ心に深い傷を負ったアデル(ケイト・ウィンスレット)と13歳の息子ヘンリー(ガトリン・グリフィス)は、脱獄犯のフランク(ジョシュ・ブローリン)に強要され、彼を自宅でかくまうことになる。

 母子は恐怖におびえるが、意外なことにフランクは料理上手で家事や力仕事もてきぱきとこなし、ギターも奏でるという好漢だった。というのがこの映画のポイント。

 監督・脚本のジェイソン・ライトマンは『マイレージ、マイライフ』(09)『ヤング≒アダルト』(11)などのシニカルな作風からは一転、特異な設定の中で、孤独な女性が抱く「私を救う白馬の王子様がきっと現れる」という願望を具体化して描いたのだ。

 アデルがフランクに引かれていく過程で、2人がピーチパイを作る場面が特に印象に残る。2人の手が交わり、やがて体が密着していくという、少々エロチックなものを感じさせるこのシーンは、ライチャス・ブラザーズの「アンチェインド・メロディ」をバックにデミ・ムーアとパトリック・スウェイジがろくろを回した『ゴースト/ニューヨークの幻』(90)の名シーンをほうふつとさせる。

 また、ストレンジャーが母子家庭を訪れる場面があるスティーブン・スピルバーグ監督の『未知との遭遇』(77)と『E.T.』(82)からの引用も見られる。

 さらに、本作と最も印象が近い映画は、母子が暮らす北海道の牧場を逃亡犯が訪れ、やがて母子が彼を愛するようになる様子を描いた、山田洋次監督の『遙かなる山の呼び声』(80)だ。

 あの映画で高倉健が幼い吉岡秀隆に乗馬を教えたように、本作でもフランクがヘンリーに野球を教える場面がある。果たしてこれは偶然の一致なのか、ライトマン監督は『遙かなる山の呼び声』を見ているのだろうか、と想像をめぐらせてみるのも楽しい。(田中雄二)


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