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NHKで好評放送中の大河ドラマ「豊臣兄弟!」。戦国時代、主人公・豊臣秀長(=小一郎/仲野太賀)が、兄・秀吉(=藤吉郎/池松壮亮)を支え、兄弟で天下統一を成し遂げるまでの軌跡を描く物語は快調に進行中。1月18日に放送された第3回「決戦前夜」では、清須にやってきた小一郎、藤吉郎の姿と、今川の侵攻に対処する織田信長(小栗旬)らの姿が描かれた。

(C)NHK
この回で印象的だったのが、藤吉郎の草履取りの逸話だ。藤吉郎が信長の草履を懐で温めた逸話は、藤吉郎の細やかな気遣いと機転の利く人柄を示す美談として知られるが、本作では藤吉郎単独の行動ではなく、小一郎と兄弟2人で行ったこととされた。しかも、温めていたわけではなく、親の仇のものと勘違いして盗もうと懐に入れたところに信長が現れ、とっさに藤吉郎が「温めておきました」と言い訳する…というまさかの展開。そのユニークな描き方は、放送時にSNSでも話題になった。
さらにこの場面は、次のように続く。すべてお見通しの信長から「この陽気に温めてなんとする?」と問い詰められた藤吉郎が「それは…」と口ごもると、横にいた小一郎が「まもなく雨が降りまする。ぬれてはいけないと思いまして」と助け舟を出す。それは、小一郎が長年、農民として田畑を耕す中で身に着けた知恵だった。
このやりとりは、まじめで知恵の回る小一郎、お調子者だが愛嬌のある藤吉郎という兄弟のキャラクターをくっきりと際立たせていた。草履を片方ずつ懐に入れたことも象徴的で、よく知られる秀吉のキャラクターを、2人に分けて描いているようにも見える。
さらに、兄弟2人と信長の関係を際立たせたのが、この後のやりとりだ。戦のどさくさに紛れて父の仇討ちを計画していた藤吉郎は、立ち去ろうとする信長に向かって「ご出陣はなされませんので?」と言葉を掛ける。余計な口出しを信長に怒られた藤吉郎だが、さらに「殿さまならきっと勝てまする」と畳みかけ、信長から「どう勝つのじゃ? 申してみよ」と迫られると、苦し紛れに「小一郎、申し上げよ」と無茶ぶり。やむなく小一郎は「負けぬことならば、できるやもしれませぬ」と「和睦」を提案するが、信長は「和睦など持ち掛ければ、敵はこちらが到底受け入れられぬことを求めてくるであろう。それは、和睦という名の敗北。降伏したも同然じゃ」と激怒。「それでも、戦って敗れるよりはマシなのでは」と食い下がる小一郎に、信長はこう言い放つ。
「あらゆる手を尽くし、考えに考え抜き、やれるだけのことをやった上で出した答えならば、それも認めよう。だが、そちの言葉は軽すぎる。たとえ負けるとわかっていても、命を懸けて戦わねばならぬことがある。それが、侍じゃ。志のないものはいらぬ。失せよ」
「和睦」という提案に、ひたすら平穏な暮らしを願う農民らしさがにじむ小一郎と、領主としての立場から、その考えの甘さを指摘した信長。そして、調子のよさと勢いだけで立ち回る藤吉郎。三人が直接言葉を交わすことで、それぞれの考え方が浮き彫りになった見応えのあるシーンだった。このときは「侍なぞ、こっちから願い下げじゃ」と立ち去った小一郎だが、直(白石聖)の説得を受けて戦への参加を決意。一方の信長も、しばらくして雨が降ってきたのを見て「見事に当ておった」とつぶやき、小一郎を見直した様子。これから小一郎が考え方の異なる信長の下でどのように立ち回り、どのように成長していくのか。物語の行方を占う上で、試金石ともいえる興味深いやりとりだった。
そして次回はいよいよ織田勢と今川勢が激突する桶狭間の合戦。そして、豊臣兄弟の仇討ちの行方も気になるところ。徐々に人物像が掘り下げられていく小一郎と藤吉郎の兄弟の歩みを、これからも見守っていきたい。

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(井上健一)