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前評判の高かった『オッペンハイマー』が順当に作品賞をはじめとする7冠に輝いた今年の第96回アカデミー賞授賞式。その『オッペンハイマー』で“原爆の父”J・ロバート・オッペンハイマーを演じ、主演男優賞に輝いたキリアン・マーフィーは、受賞スピーチで関係者への感謝を示した後、次のように語った。
「私たちは、原爆を作った男についての映画を作りました。そして、良くも悪くも、私たちは皆、オッペンハイマーの世界に生きています。だからこの賞を、平和を築く世界中の人々にささげます」
3月10日(現地時間)に行われた今回の授賞式では、今まさに世界各地で起きている戦争や紛争を思い出させる場面が多く見られた。
「ガザで続く悲劇に立ち向かうべきです」と、イスラエルによるパレスチナのガザ地区への攻撃に言及したのは、国際長編映画賞を受賞した『関心領域』(5月24日公開。音響賞も受賞)の監督、ジョナサン・グレイザーだ。オスカー像を受け取ったグレイザーは、次のようにスピーチした。
「過去の過ちより、今まさに起きている問題を訴えようと決意しました。人間性の喪失が招いた最悪の結果を描いています。現在、ホロコーストを理由にして、何の罪もない大勢の人々が苦しめられています」
『関心領域』は、アウシュビッツ強制収容所でユダヤ人虐殺を指揮したルドルフ・ヘスとその家族の姿を通して、他者に対する無関心の恐ろしさを描いた作品であり、この言葉は改めてガザの人々に思いをはせるきっかけとなった。
『オッペンハイマー』や『関心領域』だけでなく、短編アニメ賞受賞作『WAR IS OVER! Inspired by the Music of John & Yoko』など、今回のアカデミー賞は全23部門のうち、半数以上が戦争を題材にした、あるいはその影を感じさせる作品に賞が贈られる結果となった。そこには、日本映画も含まれている。視覚効果賞を受賞した『ゴジラ-1.0』は、戦争が物語の背景にあり、授賞式後のインタビューで山崎貴監督は、「『オッペンハイマー』の写し鏡のような気がします」という記者からの発言を受け、次のように答えている。
「作っているときはまったくそういうことは意図されていなかったと思いますが、出来上がった時に世の中が非常に緊張状態になっているというのは、すごく運命的なものを感じます。『ゴジラ』(シリーズ)は、戦争や核兵器の象徴であるゴジラをなんとか鎮めるという話だと思うんですけど、その“鎮める”という感覚を、世界が今欲しているんではないかなと」