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そして本作では、平民や百姓と同様に、忍びたちも世界観を広げる役割を担っている。この回では、服部党の大鼠(松本まりか)が、自分たちを捕らえた百地丹波に向かって「俺たちの親は、穴倉で虫っこ食って暮らしとった。でもこの殿(=家康)は、まともな暮らしができるようにしてくださった。俺たちを人並みに扱ってくださったんだ」と訴えていたが、そこには武士には見えない社会の底辺に生きる者の思いが込められている。同時にこの言葉からは、主君としての家康の優しい人柄や懐の広さも伝わってくる。さらに言えば、言葉で語らずとも、家康やその家臣たちとは比べ物にならない忍びたちのみすぼらしい格好を見れば、武士との格差は一目瞭然だ。
また、「その首を明智光秀様にくれてやるのじゃ」というせりふをはじめとする百地丹波と捕らわれの身となった家康の一連のやり取りも印象的だ。ここからは家康寄りの視点とは違った本能寺の変に対する世間の反応が伝わり、物語世界の広がりをより実感できる。
終盤、家康に伊賀越えの功績を認められた半蔵が、「わしもこれで側室くらいは…」と肩を抱いた大鼠から腹に一撃食らうユーモラスな場面もあったが、単なる戦闘要員とは違った忍びたちのドラマも徐々に浮かび上がってきた。その存在がドラマをどう豊かに彩っていくのか、これからの行方に注目していきたい。