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NHKで放送中の大河ドラマ「どうする家康」。5月7日に放送された第17回「三方ヶ原合戦」では、主人公・徳川家康(松本潤)が武田信玄(阿部寛)との決戦「三方ヶ原の戦い」に挑む姿が描かれた。
“家康の三大危機”の一つに数えられる「三方ヶ原の戦い」は、ドラマ的にも大きな見どころだ。だが、結果が分かっているだけに、どう描くのか、作り手の腕の見せどころとなる。今回それを際立たせたのが、武田軍の圧倒的な強さだ。
まず前半、三河に侵攻した武田軍がアッという間に各地の城を落として浜松城に迫る様子が、徳川方の視点で描かれた。
10月3日に出陣した武田軍が各地の城を落とし、わずか1カ月で浜松まで迫るすさまじいスピード。まさに「鎧袖一触(がいしゅういっしょく)」という表現がぴったりだ。
偵察に出た徳川一の猛将・本多忠勝(山田裕貴)が、武田の先鋒と交戦して血まみれで帰還するシーンは、それを強く印象付けた。
これに対して家康は織田信長(岡田准一)に救援を求め、籠城で1カ月しのげば、救援に駆け付けるという約束を取り付ける。
こうして準備万端整ったところで、家康と信玄の知恵比べが始まる。籠城で武田軍をくぎ付けにし、その間に織田の救援を待つ作戦に出る家康。だが、それを読んでいた信玄は、浜松城を素通りして家康を三方ヶ原に誘い出す…。
地の利を生かし、三方ヶ原で一撃を加えようと追撃した徳川方に衝撃を与えた武田軍の待ち伏せは、その後の合戦を描く必要がないほど、圧倒的な迫力に満ちていた。
軽快なテーマ曲に乗って武田の追撃に出た徳川方に思わず「もしかしたら勝てるかも?」と感情移入したのは、筆者だけではないだろう。視聴者が受けたその印象はある意味、武田軍と直接対戦した経験のない家康の実感に近かったかもしれない。
考えてみればこの回、武田軍は進撃する姿を見せただけで、合戦シーンは一度もなかった。にもかかわらず、その強さが伝わってきたのは、信玄役・阿部の貫禄あるたたずまいをはじめ、これまで積み上げてきた最強軍団のイメージがあればこそ。じっくり時間をかけて物語を紡ぐことができる大河ドラマならではの面白さだ。