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続いて、「平清盛」。この作品で富士川の戦いが描かれたのは、第四十七回「宿命の敗北」。ここでは、源氏の軍勢が夜の闇に紛れて平家の陣に接近する途中、驚いた水鳥が一斉に飛び立つ…というオーソドックスな描写となっていた。
ただし、その前段として、平家の大将・平維盛(井之脇海)が、兵糧不足に陥った兵の士気を高めようと、侍大将・伊藤忠清(藤本隆宏)の反対を押し切り、遊女を連れ込んで陣中で宴会を開く場面がある。
さらに、この敗戦に激怒した平清盛(松山ケンイチ)が、「平家はもはや武門ではござりませぬ」と諫言した忠清の首をはねようとするが、鞘から抜いた刀はさびついており、清盛自身もよろけて転倒してしまう。
清盛と平家の衰退を強く印象付ける終盤の名場面として、記憶に残っている人も多いのではないだろうか。主人公が清盛ということで、平家側の視点を重視しているのが特徴だ。
このように、それぞれ「水鳥の羽ばたきを聞いた平家が逃げ出す」という逸話を巧みに主人公と絡め、ドラマを作り上げている。そう考えると、北条家を主役にした本作で、時政や義時がそこに関わってくるのはもっともといえる。
人を食ったような話ではあるが、「歴史とは、得てしてそうしたささいなきっかけで動くもの」という脚本家・三谷幸喜の歴史観が垣間見える上、これまでの場当たり的で軽率な(だが憎めない)時政の人柄を知っていれば、「さもありなん」と思えるあたり、その卓越した力量を思い知る一幕でもあった。
要は、「記録に残っていない歴史の空白を、いかに面白く埋めていくか」だ。当たり前と言えば当たり前の話だが、改めて歴史ドラマの面白さを教えられた富士川の戦いだった。
(井上健一)