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【大河ドラマコラム】「鎌倉殿の13人」第8回「いざ、鎌倉」多彩な表情と人間くささが際立つ源頼朝の魅力

 2月27日に放送されたNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第8回「いざ、鎌倉」。この回、話題を集めたのは、ウサギ狩りで争いになった野武士をだまし討ちにした源義経(菅田将暉)の非道ぶりだった。

 確かに、「りりしい若武者」「悲劇の武将」といった今までのイメージからはかけ離れた卑劣な振る舞いには、筆者も驚かされた。

 だが、従来とイメージが異なるのは、義経だけではない。兄の源頼朝(大泉洋)も、「平家を倒した源氏の棟梁」「威厳ある鎌倉幕府初代将軍」といった定番の表現が似合わないほど、人間くさく描かれている。

 そんな頼朝の多彩な表情が際立ったのが、この第8回だ。

源頼朝役の大泉洋(左)と上総広常役の佐藤浩市(C)NHK

 まずは、味方の豪族たちとの間に溝が生じたことを心配した主人公の北条義時(小栗旬)や安達盛長(野添義弘)から、酒盛りに顔を出すよう促された場面。

 初めは「あまり気乗りしないのう」と渋りながらも、いざ人前に出ると「皆、やっておるかな?」と機嫌を取り、不満を口にしていた上総広常(佐藤浩市)らと杯を交わし、場の空気を和ませる。「心をつかむのはお上手ではないですか」という盛長の言葉通りの“人たらし”ぶりを見せた。

 また、家族との関係においても、人間味あふれる振る舞いを見せた。再会を心待ちにする妻・政子(小池栄子)を待たせ、その間に愛妾・亀(江口のりこ)と密会。

 翌日、そうとは知らない政子が喜色満面で現れると、何ごともなかったかのように「待っておったぞ、政子」と両手を広げて歓迎し、幼い娘・大姫ともども硬く抱き締める。

 そのあからさまな二面性には驚くばかりだが、やがて鎌倉幕府初代将軍になることを考えると、裏表を使い分けるしたたかな態度は、ある意味「政治家的」といえるのかもしれない。

 政治家的と言えば、この回ではその優れた手腕の一端も垣間見せた。一度は加勢を断ってきた甲斐の武田信義(八嶋智人)が、「必ず味方になってくれる」と見抜き、鎌倉で御所の建築場所を決める際は、「わしが豪族どもの言いなりにはならんことを示すよい機会じゃ」と勧められた亀谷を断るといった状況判断の鋭さは、ただの気まぐれな人物とは違う非凡なものを感じさせた。

 そんな多面性のある頼朝が、人間的な魅力を持った人物として破綻なく存在できるのは、演じる大泉洋がいればこそだとも言える。

 頼朝嫌いの伊東祐親(浅野和之)は「出自のよさを鼻にかけ、罪人の身でわれら坂東武士を下に見る」と語っていたが、裏表があるということは、見る立場によって全く違う印象を与えることにもなる。それは下手をすれば、同じ人物には見えない、ということにもなりかねない。

 確かに、頼朝は嫌味やわがままに見える振る舞いをすることもあるが、それでも角を立てず、場を丸く収め、なんだかんだと人を引き付けてしまう。そんな人間的な魅力は大泉本人のパブリックイメージとも重なり、違和感を抱かせない。

 脚本の三谷幸喜は、“当て書き”をすることで知られるが、そうした大泉のキャラクターも見込んだ上での起用だったに違いない。まさに、“大泉だからこそ演じられる頼朝”といってもいいだろう。

 そんな頼朝とは対照的に、誠実かつ実直な人柄が全く揺るがないのが義時だ。だが、いずれ鎌倉幕府の頂点に立つことを考えると、「誠実さ」や「実直さ」だけでは通用しない局面が必ず出てくるはずだ。

 それを乗り越えるためには、頼朝のようなしたたかさが必要になってくる。もしかしたら、義時はそういう“政治家的な振る舞い”を、頼朝の傍らで過ごす中から身に着けていくのかもしれない。

 表と裏を使い分ける政治家的な頼朝と、どこまでも誠実な義時。この2人がこれからどんな物語を紡いでいくのか。また、従来とは大きくイメージが異なる頼朝・義経兄弟の行く末も気になるところだ。見どころ満載の物語から、目が離せない。

(井上健一)

北条義時役の小栗旬 (C)NHK