【コラム 2016年注目の俳優たち】 第16回 山本耕史&片岡愛之助 関ヶ原に挑む男たちの10年前の共演作 「真田丸」

2016年8月30日 / 16:17
石田三成役の山本耕史(左)と大谷吉継役の片岡愛之助

石田三成役の山本耕史(左)と大谷吉継役の片岡愛之助

 常に冷静沈着でポーカーフェース、冷酷なほど厳格で職務に忠実な男。さらに付け加えれば、嫌なヤツ。「真田丸」における石田三成(山本耕史)のイメージは当初、そんなところではなかったろうか。ところがここ最近、ずいぶん様子が変わってきた。

 豊臣秀吉(小日向文世)の死後、徳川家康(内野聖陽)との対立が深まるにつれ、感情をあらわにする場面が増加。第33回「動乱」で見せた、周囲の制止を聞かずに徳川屋敷に討ち入ろうとする冷静さを欠いた姿などは、以前なら想像できなかったものだ。

 だが、山本が度々インタビューで語っているように、本作の三成はもともと「内面に熱さを秘めた男」。茶々(竹内結子)の妊娠をやゆする落書きをした犯人の親類縁者まで全員を極刑にかけようとする秀吉を命懸けでいさめる(第20回「前兆」)など、折に触れ、そんな一面をのぞかせてきた。それが、ここに来て一気に表出。今では、秀吉亡き後の豊臣家を守ろうとする熱い男に様変わりした。

 一方、そんな三成とは対照的に、常に冷静沈着で温厚なのが大谷吉継。演じる片岡愛之助は、「半沢直樹」(13)で演じたテンションの高いお姉キャラが有名だが、本作では落ち着いた芝居で吉継を好演。その様子が、三成の熱さをより際立たせる。

 第33回「動乱」で、家康暗殺への協力を求めに来た三成に、家康を助ける意思を伝える場面は、三成の無謀な行動を思いとどまらせようとする友情にあふれていた。

 盟友として豊臣家を支えてきた2人は、間もなく訪れる関ヶ原の戦いで共に西軍として、家康率いる東軍との決戦に挑むことになる。その行方を占う意味で振り返っておきたいのが、10年前に山本と片岡が共演した「新選組!! 土方歳三 最期の一日」(06)だ。

 このドラマは、2004年の大河ドラマ「新選組!」の後日談に当たり、近藤勇(香取慎吾)亡き後の新選組を率いる土方歳三(山本)が、旧幕府軍を率いる榎本武揚(片岡)と共に函館で新政府軍を相手に、最後の戦いを繰り広げる。

 近藤を失い、死に場所を求めて戦い続ける土方。一方の榎本は、戦局の打開が困難であることを悟った上で、兵士たちの命を救うために降伏し、自らは腹を切る覚悟を固めていた。共に死を覚悟していた2人は、反発し合いながらも、言葉を交わすうちに絆を結び、やがて生きるために戦場に赴いていく。

 脚本はもちろん、「新選組!」、「真田丸」の三谷幸喜。そのため、「俺は無駄が嫌いなだけだ」という三成のような言葉が土方の口から飛び出すなど、今見ると熱血漢の土方と冷静な榎本の関係が、三成と吉継に重なる部分もあって興味深い。

 山本と片岡が再びタッグを組む関ヶ原の戦いが、土方と榎本をほうふつとさせるものになるのかどうか。いずれにしても熱い展開になることは間違いないだろう。

 「真田丸」はこれまで、「勝者よりも敗者に魅力を感じる」と語る三谷の脚本と俳優たちの熱演を得て、武田氏や北条氏の滅亡や豊臣秀次(新納慎也)の自害など、胸に残る敗者のドラマをいくつも送り出してきた。これまでドラマを盛り上げてきた2人が迎える最大の山場が、それらと並ぶ名場面となることに期待したい。

 (ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)


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