【コラム フレームの中で躍動する女優たち】 第2回:武田梨奈 「2010年代ガールズアクションのトップランナー<後編>」

2015年10月27日 / 10:16
『かぐらめ』

『かぐらめ』

 世間からは“アクション女優”と呼ばれている武田梨奈だが、実際に彼女のアクションを見たことがある人は、意外に少ないのではないだろうか。ブレークのきっかけとなった“瓦割り”のCMが始まった2014年から今年の10月までに公開された出演映画は11本。そのうちアクション作品は『ヌイグルマーZ』(14)、『少女は異世界で戦った』(14)、『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』(15)の3本だけだ。

 だがこれは、アクションを辞めたということではない。むしろ、近年はアクションで培ったスキルを生かして、活躍の場を広げていると言った方が適切だろう。

 14年以降の武田の出演作には、いくつかの傾向がある。

 まず一つ目は、アクションで鍛えた身体能力の高さを生かした作品である。『祖谷物語 ―おくのひと―』(13)、『かぐらめ』(15)などがこれに該当する。『祖谷物語』が東京国際映画祭で上映された際、舞台あいさつで蔦哲一朗監督が武田を起用した理由を次のように語っていたと記憶している。

 「他の女優さんも探したが、体力的に山奥の祖谷の環境についてこられる人がいなかった」と。車で行ける限界からさらに2時間近く歩いたロケ地の環境に耐えられるのは、武田だけだったという。(もちろん、女優としても適役だったことは言うまでもない)

 24日から新宿武蔵野館で公開の『かぐらめ』でも、獅子の面で顔が見えないにもかかわらず、練習を積んだ上で自ら神楽を舞っている。いずれも、アクションで体を鍛えていたことが役立ったと言えるだろう。

 そして二つ目は、要所にアクションを取り入れた作品。『原宿デニール』、『ライアの祈り』、『TOKYO CITY GIRL』(いずれも15)などがそうだ。どれもがコメディタッチだったり、ドラマ性の強い作品だったりするが、ここぞという場面で得意のハイキックを披露。これによって物語がより印象的になると同時に、武田の存在感を際立たせている。

 もう一つ言及しておきたいのは、海外での活躍だ。日本ではあまり知られていないが、これまでにインドネシア映画『武士道スピリット』(14)、ミャンマー映画『ヤンゴン・ランウェイ』など、アジアを中心に海外作品への出演歴を持つ。言葉が障害にならないアクションは海外進出に有利な上に、よりスケールの大きなアクションに挑戦できる可能性も生まれる。

 かつてアジアの女性アクションスター、ミシェル・ヨーは、『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』(97)で、ピアース・ブロスナンと手錠でつながれたまま二人乗りするバイクアクションに挑戦していた。いずれは、武田のそんな超絶アクションが見られるかもしれない。

 活躍が続く武田だが、以前筆者がインタビューした際、アクションに対する持論を次のように語っていた。

 「“アクション=戦う”だけではなく、食べることもしゃべることも全部アクションだと思っています」

 その言葉を裏付けるかのように、親の借金のカタに風俗に売られて落ちていく少女を演じた『木屋町DARUMA』(全国順次公開中)を始め、“戦う”アクションのない作品では、いずれも一筋縄ではいかない役に挑戦。女優として意欲的な姿勢がうかがえる。

 「そうはいってもやっぱりカッコよく戦う武田梨奈が見たい!」という人には、『進撃の巨人』のスピンオフ「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN 反撃の狼煙」がお薦め。全3話のうち、武田が主演した第3話「自由への旅立ち」では、久々にテンコ盛りのアクションが楽しめる。(dTVで配信およびDVDレンタル中)

 年明けの1月8日からは、連ドラ初主演作「ワカコ酒」(BSジャパン)のシーズン2の放送も決定し、早くも来年の飛躍を予感させる。今やハリウッドのスター女優もアクションに挑戦する時代。日本でアクションの最前線を走る武田が、世界のトップスターと共演する日が来るのも、そう遠くないかもしれない。

 (ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)


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