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リチャード・カーティス監督の最新作『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』が27日から公開された。
カーティスは、脚本家として『フォー・ウェディング』(94)『ノッティングヒルの恋人』(99)『ブリジット・ジョーンズの日記』(01)などを手掛け、『ラブ・アクチュアリー』(03)で監督デビューした“ロマンチックコメディーの名手”。本作にも彼らしい匠(たくみ)の技が随所に発揮されている。
主人公のティム(ドーナル・グリーソン)は21歳の誕生日に、父(ビル・ナイ)から、一家に生まれた男たちにはタイムトラベルの能力が備わっていることを知らされる。有頂天になったティムは、自分と家族のためにタイムトラベルを繰り返し、恋や人生の成功をつかもうとするが…。
本作のユニークな点は、タイムトラベルに、1.能力が発揮できるのは21歳から。2.狭くて暗い空間で目を閉じ、拳を握りながら行きたい時間や場所を唱えなければならない。3.自分の記憶にある過去にしか行けず、未来や歴史には関われない。4.全ての決断が自分の未来を左右する。という一定のルールを設けたところ。
万能ではないから、ティムが過去の事象を変えてもまた別の問題が生じる。タイムトラベルで全てが良くなるわけではないし、結局何度してもきりがないということになる。
その結果ティムは「今日という1日を精いっぱい生きることが人生を豊かにする。人生こそが冒険に満ちたタイムトラベルなんだ」と、予測不可能な人生を自分自身で切り開いていくことの素晴らしさに気付くのだ。
カーティスの巧みなストーリーテリングに加えて、ティム役のグリーソン、妻役のレイチェル・マクアダムス、父親役のナイらの演技が見事に相乗効果を発揮し、あり得ないはずの物語をリアルで身近なものとして感じさせる。美しい海辺の町コーンウォールとクールな都会ロンドンとの対比も面白く描かれている。
ところで、『素晴らしき哉、人生!』(46)『3人のゴースト』(88)『天使がくれた時間』(00)といったファンタジー映画の名作は、主人公をパラレルワールドにいざなうことで「心の持ち方一つで人生はどうにでも変わる」ことを描いたが、本作もタイムトラベルを通して、発想の転換がもたらす喜びをあらためて教えてくれる。(田中雄二)