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今年4月、ジョー・キーリーはDjo名義で最新作『The Crux』をリリースした。ヴィンテージシンセの質感と現行インディのミニマリズム、そしてサイケデリックな広がりを束ねた本作は、彼がミュージシャンとして到達した新たな地平を示す一枚だ。「Basic Being Basic」「Delete Ya」「Listen」「Egg」「End of Beginning」など、アルバムを象徴する楽曲や自身の名を広めたヒット曲がライブの軸を担い、その世界観を最大値で体現した。本稿は、その夜に響いた光と音の記録である。
オープニングを飾ったのは、シカゴ出身の5人組バンド、ポスト・アニマル。2010年代中盤、アメリカのインディーシーンから頭角を現した彼らは、サイケデリックロックとプログレッシブポップ、さらに浮遊感のあるシンセを融合させた重厚かつ有機的なサウンドで知られる。複雑な構成とキャッチーなメロディーが同居するその音は、ライブでこそ真価を発揮する。バンドの初期メンバーのひとりが、のちに俳優として世界的に知られるジョー。彼が俳優業に専念するようになってからも、バンドとの絆は途切れることなく続いていた。互いのステージにサプライズで登場し合い、Djoのライブではポスト・アニマルのメンバーがサポートとして参加するなど、音楽的な交流は常に続いてきた。このツアーは、そんな二つのプロジェクトが再び同じ旅路を共にするという、まさに理想的な形での再会だった。
この夜のポスト・アニマルは、ツアー最終公演にふさわしい集中力と熱量でステージに立った。ドラムのウェスリー・トリードがタイトなリズムを刻み、ベース&ボーカルのダルトン・アリソンが重心の低いグルーヴを生み出す。ギターとキーボードを行き来するジェイク・ハーシュランド、メロディックなリードを響かせるハビエル・レイイェス、そしてエフェクトで奥行きを描くマット・ウィリアムス。5人の音が重なった瞬間、フロアの空気が一変した。
序盤の「Caving In」「Gelatin Mode」で彼らは音の密度を高め、リズムが波打つたびに照明が反応し、観客の歓声が弾けた。「Setting Sun」ではギターが光の糸のように絡み、「Ralphie」ではベースとドラムが地鳴りのように空間を揺らす。中盤の「Maybe You Have To」「Victory Lap: Danger Zone」では、静寂と轟音のコントラストが生む緊張感が美しく、観客が息を呑むように聴き入った。
「Pie in the Sky」で多声コーラスが重なり合い、5人のハーモニーが天井まで響き渡る。 その流れのまま、ステージの照明が少し落ち、イントロと共に観客がどよめいた。そこへ登場したのは、かつての仲間ジョー。会場は一瞬にして歓声の渦に包まれた。
「Last Goodbye」では、ダルトンとジョーがマイクをシェアして歌う。長い時間を経て再び音で交わるその瞬間に、観客も笑顔と涙で応えた。続く「Dirtpicker」ではジョーがギターで加わり、5人と1人が再びひとつのバンドに戻った。二台のギターが絡み合い、ウェスリーのドラムが疾走し、ダルトンのベースがそのすべてを支える。観客の拍手と歓声がフロア全体を包み、まるで時間が巻き戻ったかのようだった。曲が終わると、メンバーは互いに笑顔を交わし、軽く肩を抱き合う。彼らにとってこの夜は、ツアーの終わりでありながら、また新しい出発点でもあった。ポスト・アニマルのステージは、Djo本編へと続く完璧な“序章”だった。
ステージが暗転し、低く唸るシンセのループが空気を包む。会場全体が息を潜めるように静まり、次の瞬間、二台のドラムが同時に鳴り響いた。ウェスリーとベン・ロマスが左右から打ち込むビートは、波のように会場を揺らし、観客のざわめきを音の渦に溶かしていく。光と音だけが残る中、ジョー・キーリーがギターを抱えて現れた。その瞬間、ロサンゼルス最終公演の幕が上がった。
「Awake」「Uglyfisherman」「Basic Being Basic」。序盤の三曲で、音と照明と観客の呼吸がひとつになる。ツインドラムが互いの隙間を突くようにリズムを刻み、ジョーのギターがその間を縫ってメロディーを描く。ブルーとパープルを行き来する照明の中、彼は視線をフロアに投げながら、一音ごとに空気を震わせていた。
「Gloom」から「Link」へと流れるグルーヴの高まり。観客は自然と身体を揺らし、手拍子がステージの音と交わる。ジョーは少しうつむきながらギターを鳴らし、ステージ右側のシンセに目配せする。音楽に身を委ねながら、彼はバンド全体の呼吸を指先で導いていた。「Charlie’s Garden」では、観客の手に握られた緑のライトが揺れた。ジョーはその光の海を見渡し、微笑む。ステージとフロアの境界が消え、音楽が空間そのものを優しく包み込んでいった。
中盤、「Roddy」「Gap Tooth Smile」「Potion」「Love Can’t Break The Spell」では、ツインドラムの衝突とギターの火花が完璧なバランスで交わった。ジョーは音の中心に立ちながらも、決して前に出すぎることなく、バンド全体の流れを一体として動かしていた。後半、「Fly」「Delete Ya」「Half Life」「Listen」「Egg」と続き、観客の声は曲ごとに大きくなっていく。どの曲も大合唱だったが、「End of Beginning」での合唱はこの夜の頂点だった。イントロの一音でフロアがざわめき、ジョーがマイクを握ると数千人の声が会場を包む。彼は笑顔を浮かべ、マイクを観客に向け、最後のサビを完全に委ねた。その瞬間、音と人の境界が消え、音楽そのものが呼吸していた。
「Back On You」で本編はクライマックスを迎える。二台のドラムが向かい合うように叩き、ギターとシンセが疾走を始める。ジョーはギターを高く掲げ、観客の視線をその音に導くように立ち尽くした。光と音が溶け合い、会場は完全に“Djo”の世界に包まれた。
アンコールでは「Chateau (Feel Alright)」の柔らかなギターが空気を解きほぐし、最後の「Flash Mountain」ではポスト・アニマルのメンバーが再登場。ツアーを共に走り抜けた仲間たちと笑顔を交わしながら、この夜だけの祝祭を鳴らし切った。最後の一音が消えた後も、観客の歌声は止まらなかった。ジョーはギターを抱えたまま深く一礼し、静かにステージを降りる。その背中には、俳優ではなく“音で語るひとりのアーティスト”の姿があった。ポスト・アニマルと再び交わったこの夜、彼の音楽は原点に還りながらも未来を見ていた。鳴り止まない拍手と余韻。ロサンゼルスの夜に残ったその響きこそ、“Djo”という存在が確かに息づいている証だった。
Text & photos by ERINA UEMURA
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