【映画コラム】平凡な日々こそがいとおしい『エセルとアーネスト ふたりの時間』

2019年9月30日 / 17:13

 『スノーマン』『風がふくとき』などで知られるイギリスの絵本作家レイモンド・ブリッグスが、自身の両親の人生を描いた絵本を、アニメーション映画化した『エセルとアーネスト ふたりの時間』が公開中だ。

(C)Ethel & Ernest Productions Limited, Melusine Productions S.A.,The British Film Institute and Ffilm Cymru Wales CBC 2016

 1928年、牛乳配達のアーネスト(声:ジム・ブロードベント)とメイドのエセル(声:ブレンダ・ブレッシン)の結婚から、1971年の彼らの死までが描かれる。あえて2Dアニメで撮っているところがノスタルジックな効果を上げている。

 息子レイモンドの誕生、戦中戦後の彼らの生活などを淡々と描くことで、ごく普通の人々のありふれた日々の暮らしが浮かび上がる。戦争すら日常の一部として描かれる。劇的な出来事はほとんどない。けれども、実は平凡な日々こそがいとおしいのだ。

 これは日本のアニメ映画『この世界の片隅に』(16)にも通じるものがあり、何だか小津安二郎や成瀬巳喜男の映画を見ているような気分にもさせられる。アーネストが読む新聞やラジオ(やがてテレビに変わる)、エセルとの会話で、世の中の変化を知らせるさりげなさもいい。

 例えば、こんなシーンも心に残る。アーネストはビクター・マクラグレンのファンで、2人が初めて一緒に見た映画は、マクラグレン主演、ジョン・フォード監督の『血涙の志士』(28)。これが、晩年、ぼけてアーネストのことが分からなくなったエセルが、息子に「あの人誰? ビクター・マクラグレンかと思った」と語り掛ける、おかしくも切ないシーンにつながるのだ。

 そして、この2人のように、人間は誰もが老いて死んでいく。身近な人もいつかはいなくなる。だからこそエンディングに流れるポール・マッカートニーの「In The Blink Of An Eye=瞬く間に」が心に染みる。いい映画を見た、と実感させてくれるような名編といってもいい。(田中雄二)


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