【映画コラム】仕事と家庭とのバランスを見つける闘いを描いた『パパは奮闘中!』

2019年4月27日 / 17:19

 オンライン販売会社の倉庫で働くオリビエ(ロマン・デュリス)は、妻のローラと2人の子どもたちと懸命に暮らしていた。ところがある日突然、妻に家出をされてしまう。仕事と育児に奮闘せざるを得なくなった主人公の生活を通して、彼を取り巻くさまざまな問題について考えさせるフランス映画『パパは奮闘中!』が公開中だ。

(C)2018 Iota Production/LFP-Les Films Pelleas/ RTBF / Auvergne-Rhone-Alpes Cinema

 本作は、設定が似ているアメリカ映画『クレイマー、クレイマー』(79)の現代版ともいわれるが、ベルギー出身のギヨーム・セネズ監督が基にしたのは、パートナーとの別れという自身の体験で、台本なしの即興で撮られた。

 セネズ監督は即興演出について「観客は、俳優たちのリアルなやり取りから信ぴょう性を見つけ、映画を信じ、共感し、感動してくれる。そういう意味でフリージャズ的な演出を重要視した」と語る。

 また『クレイマー、クレイマー』と大きく違うのは、前者の家庭が富裕層だったのに比して、本作はいわゆる労働者階級の家庭を描いているところだ。だから主人公の職場の問題なども描きながら、仕事とは? 働くこととは?を見る側に問い掛けてくる側面があるし、映画に労働問題を入れ込んだり、BGMを使わないところなどは、同郷のジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟監督の映画と重なるところもある。

 また、本作を見ながら、『クレイマー、クレイマー』はもちろん、それに影響を受けて作られたであろう市川崑監督の『幸福』(81)のことも思い出した。脚本は女性が書き、残された子どもは2人、失踪後妻は全く姿を見せない点なども本作と類似していたからである。

 本作の原題は「私たちの闘い」だ。セネズ監督は「本作の核は、仕事と家庭とのバランスを模索するある男の“闘い”だが、注目してもらいたいのはタイトルが“私たち”と複数形になっていること。それは一つの闘いではなくて、仕事との闘いでもあるし、家庭をめぐる闘いでもある。また、登場人物全員が“私たち”であり、そこには観客も含まれる。つまり、全ての人が何らかの闘いをしながら懸命に生きていることを表したかった」と語っている。

 ちなみに、フランスでアンケートを取ると「妻は戻ってくる」と答える人は約半数だが、日本の試写会では「戻ってくる」と答えた人の方が多かったという。(田中雄二)


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