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高橋一生演じる小野政次の壮絶な最期に、誰もが言葉を失った第33回「嫌われ政次の一生」。放送終了後、twitter上には「神回」などと称賛する言葉があふれ、追悼CDまで発売されるなど、大きな話題を集めた。
その第33回を見ていないという人には、とにかく「見て!」と言うしかないが、ここではそこに至るまでの小野政次=高橋一生の足跡を振り返る意味で、筆者が選んだ必見の5話を紹介したい。今まで見てきた人も、今回初めて「おんな城主 直虎」に触れた人も、この5話を踏まえて第33回を見直せば、その味わいがより一層深くなるはずだ。
第7回「検地がやってきた」
幼なじみの次郎法師(直虎/柴咲コウ)、直親(三浦春馬)と共に井伊家を支えたいという思いと、主家・今川家の目付という立場の間で苦悩する政次にスポットを当てた回。この回については以前、『【芸能コラム】高橋一生の名演が引き出す小野政次の魅力 「おんな城主 直虎」』にも書いたので、詳しくはそちらを参照いただきたいが、複雑な心情をにじませる高橋の演技が見事。今となっては、表情豊かな政次も懐かしい。第33回、なつ(山口紗弥加)の膝枕で政次が振り返ったのが、このエピソードである。
第11回「さらば愛しき人よ」
急速に衰えていく今川家からの離反をもくろむ直親と、その計画に協力を約束する政次。だが、2人の思惑は今川に見抜かれていた…。次郎法師、直親、政次の3人がそろう最後の場面となり、高橋自身「最高と感じた」という井戸端での会話が味わい深い。寿桂尼(浅丘ルリ子)から徳川との内通を問い詰められる場面も見応え十分だ。
第18回「あるいは裏切りという名の鶴」
まだ幼い井伊家後継者・虎松(寺田心)の後見の座を巡って、直虎と対立してきた政次の真意が明らかになる。直親の死後、今川の目付として態度を豹変させた政次だが、それは楯となって井伊家を守るためであった。そのことに気付いた直虎から問いただされる場面について高橋は、インタビューで演技の充実ぶりを語っている。第12回から冷徹な態度で直虎と接してきた政次は以後、直虎と2人の時は素顔をのぞかせつつ、公の場では目付としての立場を保つという多面的な芝居を見せるようになる。
第31回「虎松の首」
井伊谷を直轄領にともくろむ今川の陰謀により、徳政令発布を迫られた直虎と政次は、裏をかいて起死回生の策に打って出る。「俺を信じろ、おとわ」という政次のとっさの一言を発端にした2人の連係プレーは、ここまでの積み重ねがあればこそ。今川から虎松の首を要求された政次が雨の夜、身代わりに名もない子どもをあやめ、「案ずるな、地獄へは俺が行く」と血にぬれた刀を手に家来たちに語る場面は異様な迫力。
第32回「復活の火」
運命の第33回と併せて一気見したいエピソード。内通していた徳川の今川領への進撃が始まる中、井伊家復活と今川支配からの脱却を願って、その時に備える直虎と政次。明るい未来を信じる直虎とのやり取り、なつへの愛の告白など、折り目正しい態度を保ってきた政次の人間味あふれる姿が心にしみる。
以上、限られた文字数で小野政次の魅力が光る5話を紹介してみたが、これはその死を悼み、演じた高橋一生の退場を惜しむためのものではない。これを見れば、政次が命を懸けて守ろうとした井伊谷の未来、物語の行く末を、必ずや見届けようという気になるはずだ。(井上健一)