【芸能コラム】アニメーションで描かれる戦争の始まり 『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突 ルウム会戦』

2017年9月2日 / 16:56

『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突 ルウム会戦』

 人気シリーズの原点「機動戦士ガンダム」(79~80)の前日談を描いたアニメーション第5弾『機動戦士ガンダム THE ORIGIN 激突 ルウム会戦』が、9月2日から公開される。

 いまさらの話で恐縮だが、「機動戦士ガンダム」の世界観を簡単に説明しておく。人口の増加に伴い、地球の周囲に建造された宇宙都市“スペースコロニー”に人類が移民するようになった時代。人類を統治する地球連邦政府に対して、コロニー国家“ジオン公国”が、後に“一年戦争”と呼ばれる独立戦争を挑む。

 このように「機動戦士ガンダム」は、宇宙時代の国家間の戦争を背景にした、戦火に巻き込まれた少年少女の物語である。「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」は、そのキャラクターデザインを手掛けた安彦良和が、コミックの形でリメークした作品。その中に、テレビシリーズ(およびそれを基にした劇場版三部作)では語られなかった前日談を描いたパートがあり、安彦自身が総監督を務めてそれを映像化したのが、アニメ版「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」シリーズ(以下、「THE ORIGIN」)である。本シリーズでは、人気キャラクター、シャア・アズナブルの知られざる過去を軸に、一年戦争開戦に至る秘話が明かされる。

 ガンダムブームと共に人気クリエーターとなった安彦は、1990年代に入るとアニメ業界を離れ、漫画家として活動。以降、「古事記」を基にした『ナムジ 大國主』や、昭和初期の満州を舞台にした『虹色のトロツキー』など、歴史を題材にした作品を数多く手掛けてきた。歴史上の人物を物語の中に生き生きとよみがえらせる力量には、目を見張るものがある。その手腕を「THE ORIGIN」シリーズでも存分に発揮。高圧的な地球連邦政府に対する宇宙移民者たちの不満が自治権の要求へと発展、やがて開戦に至る過程をダイナミックな人間ドラマの中につづって見せる。

 そして、戦争初期の戦いを描いた第5話『激突 ルウム会戦』の大きな見せ場となるのが、これまで「機動戦士ガンダム」劇中で短く伝えられてきた、ジオン軍の“コロニー落とし”だ。だが、物語の大前提となるこのエピソードについて、安彦はコミック連載時、「できれば描きたくなくて」(「機動戦士ガンダム THE ORIGIN 公式ガイドブック2」より)と語っていた。「人類の半数を死に至らしめた」と語られるこの大惨事を描くことは、さすがに気が引けたのかもしれない。(最終的には、コミックでも描かれた)。

 『激突 ルウム会戦』の作品資料にある安彦の言葉によれば、「機動戦士ガンダム」当時、“コロニー落とし”は「全面核戦争を物語に移し替えたもの」だったという。この話から、その重さが理解できるのではないだろうか。映像化する際には、相当な覚悟があったはず。そこには学生時代、ベトナム反戦運動をきっかけに学生運動へ傾倒していった自らの戦争に対する思いも込められていたに違いない。

 ガンダムの登場以降、日本では戦争を扱った映画やテレビドラマが年々減少する一方、SFやロボットものといった形で、戦争を描くアニメーションが数多く作られてきた。その積み重ねを経て、安彦が今の世に送り出したアニメ版「THE ORIGIN」シリーズは、戦争がどのように始まるかを私たちに教えてくれる作品と言えるのではないだろうか。(井上健一)


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