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異星人とのコンタクトを描いた『メッセージ』が公開された。
ある日突然、謎の巨大物体が地球にやって来る。その目的は不明。軍に雇われた言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)と物理学者のイアン(ジェレミー・レナー)は、7本の足(ヘプタポッド)と名付けた、一対の“彼ら”との接触を試みるが…。
本作は『2001年宇宙の旅』(68)や『未知との遭遇』(77)『コンタクト』(97)『インターステラー』(14)といった一種哲学的なSF映画の系譜に連なるが、実は“彼ら”との接触を通して、ルイーズの心の旅を見せながら、現在、過去、未来という時の概念を超越した世界を現出させるのが目的だ。ルイーズの内面を見事に表現したアダムスの演技が、この目新しいテーマを際立たせている。
監督は『プリズナーズ』『複製された男』(ともに13)『ボーダーライン』(15)など、不条理劇を得意とするカナダ出身のドゥニ・ヴィルヌーヴ。「最もパワフルな音は無音だ」と語るように、今回は、効果音や音楽を極力抑えた演出が効果を上げた。勘所でのヨハン・ヨハンソンの不気味な音楽とも相まって、アカデミー賞で音響編集賞を受賞したのも納得できる。
また、脚色のエリック・ハイセラーの「テッド・チャンの原作『あなたの人生の物語』は、脳と心の糧になるような話だった」という言葉通り、“彼ら”が発する12分割のメッセージや表義文字の意味は? 時折挿入されるルイーズの娘の映像は?…など、見た後にさまざまな謎が残り、分かったような分からないような不思議な気分になって、もう一度見直してみたくなる。見る者の知的好奇心を刺激するという点で、本作は『君の名は。』のようなリピーターを生むかもしれない。
余談だが、日本公開前に「宇宙船の形がスナック菓子の『ばかうけ』にそっくり」という評判が広がった。これを受けてヴィルヌーヴ監督は「ご推察の通り、宇宙船のデザインは『ばかうけ』に影響を受けたものだ」とコメントしたが、これはあくまでもサービストーク。
至極真面目な映画なのに、ヘプタポッドに、往年の喜劇コンビ、アボットとコステロとニックネームを付けるあたりにも監督のジョーク好きの様子がうかがえて楽しい。(田中雄二)