【映画コラム】戦後のアメリカを見詰め直した力作『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』

2016年7月23日 / 18:47
(C)2015 Trumbo Productions, LLC. ALL RIGHTS RESERVED Photo by Hilary Bronwyn

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 1940~50年代、米ソ冷戦下で起きた赤狩りに巻き込まれて投獄され、仕事も失った脚本家ダルトン・トランボを主人公にした『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』が公開された。

 本作は、トランボ(ブライアン・クランストン)の受難とそれに続く闘いの様子を中心に、彼の家族、知人、映画人の動静も描きながら、戦後のハリウッド、引いてはアメリカという国の有り方を見詰め直した力作だ。

 『オースティン・パワーズ』や『ミート・ザ・ペアレンツ』といったコメディーシリーズを得意とするジェイ・ローチ監督が、トランボという一人の人物を、ある時は赤狩りにあらがう闘士、またあるときは職人脚本家、そして悩める家庭人といった具合に、多角的な視点から真面目に描いているのが興味深い。演じたクランストンも素晴らしい演技を披露する。

 また、俳優組合の会長としてトランボと敵対するジョン・ウェイン、干されたトランボを主演映画『スパルタカス』(60)の脚本家として迎えたカーク・ダグラス、仲間から密告者へと転じた元親友のエドワード・G・ロビンソンなど、トランボを取り巻く実在の人物が多数登場し、映画に厚みを加える。何となく似ているようで似ていない俳優を起用し、生々しさを緩和しているのが面白い。

 中でも「安くてもうかる映画の脚本が書ければ思想なんかどうでもいいんだ」とうそぶき、結果的にトランボを救う役割を果たした三流映画会社のキング社長(ジョン・グッドマン)の人物像が傑作だ。

 ただ、本作のラストの演説でトランボが「あの時代を生きた誰もが赤狩りの被害者だった」と語るように、こうした実録映画が描く歴史事象は、単なる善悪では測れず、どちらの側から見るかで全く違ったものになる。それを承知した上で、映画を見ることも必要だろう。

 ちなみにトランボは、『ローマの休日』(53)と『黒い牝牛』(56)で偽名のままアカデミー賞を受賞した後、『スパルタカス』とオットー・プレミンジャー監督の『栄光への脱出』(60)で表舞台に復帰。名誉を回復した後も、第1次大戦で傷を負った兵士を主人公にした反戦映画『ジョニーは戦場へ行った』(71)、ケネディ大統領暗殺の謎に迫った『ダラスの熱い日』(73)、無実を叫ぶ終身犯の脱獄への執念を描いた『パピヨン』(73)など、骨太の脚本を書き続けた。(田中雄二)


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