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阿部真央が全国ホールツアー【阿部真央ホールツアー2025 -On My Way Home-】のファイナル公演を11月3日に東京・LINE CUBE SHIBUYAにて開催した。10月11日の大阪公演を皮切りに、福岡、北海道、愛知、東京の全国5都市をまわった今回のツアー。彼女はソールドアウトとなった満員の会場で熱狂的な歓声を受けながら、パワフルかつソウルフルな歌声でアーティストとしての魅力を存分に見せつけた。
オープニングを飾ったのは2010年1月にリリースされた2ndアルバム『ポッぷ』の1曲目に収録されていた「未だ」。<始まりそうだよ/終わりなき時代へと>というフレーズがこの場ではライブの始まりにふさわしいフレーズのように響くが、一番好きな人が他にいるのは分かっていながらも付き合っている彼の目線で描かれた、彼女が高校3年生の時に作った切ないラブソングだ。ツアーのサブタイトルからも“帰宅途中”の高校生カップルの姿が想起される中で、この曲で最も印象に残ったのはライティングの素晴らしさ。ステージ上に派手な装飾はなく、バンドセットがあるのみで、その周囲にはゆうに50台を超えるライトが設置されていた。冒頭は背後から照らされたライトで彼女の表情は見えず、シルエットのみが浮かび上がり、サビで正面からの光が照らされたかと思いきや、真横からの片光のみという劇的な瞬間もあった。ツアーを通してバンドのアンサンブルの息が合い、だんだんよくなっていくと聞くが、照明や舞台、音響も含めてチーム全体でこのツアーを作り上げてきたんだということがはっきりとわかる演出となっていた。
そして、「東京!」とシャウトしてアコギを激しくかき鳴らした攻撃的なロックナンバー「逝きそうなヒーローと糠に釘男」で観客のテンションを一気に引き上げると、17歳という中途半端な年齢から解放されたいという思いを込めた「ふりぃ」ではツアーのロゴになっている「ABE MAO」のドロップが登場。バスドラに合わせた盛大なクラップとコールが繰り広げれると、サーチライトが客席を照らした「Believe in yourself」では観客としっかりと目を合わせながら、自分を投げ出さずに自分を信じて進んでいこうというメッセージをまっすぐに届けた。
最初のMCでは「1か月弱、全国をめぐって東京に帰ってきました。いろんな気持ちを皆に見てもらおうかなと思います。全力で演奏して帰りますので最後まで楽しんでください」と挨拶。“いろんな気持ち”とはなんなのか。高校生の頃に作った「じゃあ、何故」から「妊娠中と産んだ後に書いた曲です」と語った「この時を幸せと呼ぼう」へ。さらに、2012年のリリース当時にデビュー後にリスナーがいることを意識して書いたと語っていた4thアルバム『戦いは終わらない』の収録曲「ここにいて」、今年の4月に放映されたサスペンスドラマのエンディング・テーマとして書き下ろした讃美歌のようなラブソング「マリア」。カントリーフォークのようにノスタルジックで優しい歌声を聴かせたかと思えば、抑制された語り口からダイナミックに広がっていく迫力満点のボーカリゼーションまで。久しぶりにパフォーマンスした曲もあったが、母の娘だった頃から息子の母なった今が交錯する一連の流れは、私が帰る“ホーム”はどこか? という自身への問いかけから生まれたセットリストのように感じた。
ここから場面を転換し、マニピュレーターの前田雄吾を除くバンドメンバー、吉田佳史(Dr)、高間有一(Ba)、akkin(Gt)、和田建一郎(Gt)、ミトカツユキ(Key)の5人が半円となって彼女を囲むアコースティックコーナーに突入。カホーンやアコーディオンの演奏に観客が手拍子で参加した「逢いに行く」ではキュートでチャーミングな歌声をみせてホールを親密で温かいムードで包み込むと、「Keep Your Fire Burning」ではギターのボトルネックを使って、決して消えることのない情熱の揺らめきを表現。そして、2026年1月に放送スタートするテレビアニメ『透明男と人間女~そのうち夫婦になるふたり~』のオープニング主題歌として書き下ろした新曲「Ding-dong」を披露。このニュースを見た時はクリスマスソングかな? と想像していたのだが、ピアニカをフィーチャーしたフォークカントリーで、心の内側からじんわりと温めてくれるような優しさのある楽曲となっていた。また、「そのまんまの自分でいてもいいんだよって見せてくれる人との出会いは奇跡だねっていう歌です」という言葉の後で、ツアーの副題となっている<私の帰り道で>というフレーズや次のツアーの<On your way home>という歌詞が入っていることも明かされた。果たしてどんな歌詞になっているのか、詳細はリリースや次のツアーを待ちたいが、現時点では音楽を通して出会った仲間と集まれるこの場所こそが彼女のマイホームであり、観客にとっても、いつでも自分らしく戻れるユアホームであってほしいという願いが込められているのではないかと思う。
バンドメンバーがステージを去り、アコギの弾き語りで<本当に側に居て欲しい時 貴方はいつも居なかった>と絶叫した「嘘つき」を経て、再びバンド編成となった「Sailing」からライブは後半戦へ。「貴方はもう違う誰かみたいだね」という戸惑いからの潔い別離を書いた「Somebody Else Now」では大合唱が沸き起こり、「男性の心の中にも女性の心の中にも強い女がいた方がいいじゃないかな?」と投げかけた「女たち」で観客だけでなくバンドメンバーも一緒になってジャンプ。「どうしますか、あなたなら」では全員が手を上げて盛り上がると、音楽を通して観客の一人一人と手を繋ぐように歌った「君の唄」、決めで阿部真央を含むバンドメンバー全員で開脚ジャンプした「モットー。」では<モットー!>と観客が一体となって声を上げ、ライブはクライマックスへ。
本編ラストは2010年にリリースした代表曲の1つである「ロンリー」。阿部真央はステージの一番前まで進み、観客に手を振りながらパフォーマンスすると、再び大合唱やジャンプ、高く掲げた手を左右に振るワイパーやクラップなどで楽曲を共有。ライブの楽しさが溢れるなかで、<帰りたい場所がある>と“On My Way Home”を想起されるフレーズを残してステージを後にした。
“阿部真央”コールに導かれて走ってステージに戻ってきた阿部真央は、「モンロー」でピアスを飛ばしてしまうほどエネルギッシュにパフォーマンスすると、「みんなにずっと会いたかったという気持ちを込めて歌います」と語ったデビュー曲「I wanna see you」でもジャンプやシンガロングが起こり、ステージと客席の距離をグッと縮めてみせた。
ここで、デビュー前からお世話になっているギターの和田が結婚し、ツアー中に第一子が誕生したことをファンに報告。会場がお祝いの拍手に包まれる中で、ホイットニー・ヒューストン「I Will Always Love You」を熱唱。今年6月に行われたビルボードライブ・ツアーの最終日にも照明の三上さんの娘さんが結婚したことを発表し、「いつの日も」をサプライズで歌唱していたが、彼女のファミリーやホームがどこにあるかがわかるシーンだったように思う。「泣いちゃったもんね、報告を受けた時」と語っていたが、それも“いろんな”気持ちの1つだったのだろう。そして、今回のツアーを振り返りながら、観客にゆっくりと語りかけた。
「みんなも日々、いろんなことが起きてると思うんですけど、私はいつもライブで言うんですね。まずは自分の人生を楽しく輝かせて、ぜひ余裕があるときに来てくださいって。ライフステージの変化がいろいろとある中で、うれしいことも悲しいことも、楽しいことも辛いこともいっぱいあると思いますが、余力があるときに阿部真央のライブに来ていただいて。どんな一歩かわからないけど、明日からの一歩のパワーになれたらうれしいです」と話した後、ファンへの感謝を伝え、「この活動が長く続けばいいなと思いました」と未来への決意を口にすると、場内からはこの日、一番大きな拍手が送られた。
「20年近く前に作ったんだけど、当時はこんなにたくさん、阿部真央とみんなが繋がる曲だとは思ってなかった」という「貴方の恋人になりたいのです」、バンドメンバーを送り出した後で弾き語りで歌った「ストーカーの唄~3丁目、貴方の家~」と、この夏に<THE FIRST TAKE>でパフォーマンスして話題となった楽曲を続けた。そして、デビューするきっかけになった楽曲で、ライブに行かないと聞けない「母の唄」でエンディング。魂のこもった歌声の厚みもまた、ライブという生の現場でしか味わえない感動と余韻をもたらしてくれる。
11月22 日からは早くも【阿部真央アコースティックツアー2025 – On Your Way Home -】が始まる。力強さと優しさがしなやかに織り合わさり、“いろんな気持ち”がしっかりと刻み込まれた今の阿部真央の歌声をぜひ体験してもらいたい。
Text by 永堀アツオ
Photo by 森好弘
◎セットリスト
【阿部真央ホールツアー2025 -On My Way Home-】
2025年11月3日(月祝)東京・LINE CUBE SHIBUYA
01. 未だ
02. 逝きそうなヒーローと糠に釘男
03. ふりぃ
04. Believe in yourself
05. じゃあ、何故
06. この時を幸せと呼ぼう
07. ここにいて
08. マリア
09. 逢いに行く
10. Keep Your Fire Burning
11. Ding-dong
12. 嘘つき
13. Sailing
14. Somebody Else Now
15. 女たち
16. どうしますか、あなたなら
17. 君の唄(キミノウタ)
18. モットー。
19. ロンリー
En01. モンロー
En02. I wanna see you
En03. 貴方の恋人になりたいのです
En04. ストーカーの唄~3丁目、貴方の家~
En05. 母の唄
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