<ライブレポート>T字路s インディーとメジャー、カバーとオリジナル……15年の歩みを“両A面”で鳴らした【ダブルサイダーツアー】ファイナル

2025年4月21日 / 19:00

 今年4月、結成15年にしてメジャーデビューを果たしたT字路sが4月11日、【T字路s ダブルサイダーツアー 2024-2025】のファイナル公演を東京・渋谷O-EASTにて行った。

 T字路sは、伊東妙子(Vo. / Gt.)と篠田智仁(Ba.)により2010年に結成されたデュオ。これまで3枚のオリジナルアルバムと3枚のカバーアルバムを含む、多彩な作品をリリース。また【FUJI ROCK FESTIVAL】をはじめ、全国各地のフェスに出演するなど精力的に活動を行ってきた。レコード用語で両A面を意味する「ダブルサイダー」をタイトルに冠した【ダブルサイダーツアー 2024-2025】は昨年の10月に始まり、これまで29会場を回ってきたキャリア史上最大規模のワンマンツアーである。この日の会場には老若男女を問わず幅広い年齢層のファンが、この長いツアーの締めくくりを一目見ようと駆けつけていた。

※以下、公演全体のレポートにつきネタバレを含みます。

 定刻になり、暗転した会場に「ロックンロールの母」とも称されるシスター・ロゼッタ・サープの「Shout, Sister, Shout!」が流れ始めると、会場のボルテージがさらに一段上がる。リズムに合わせ、ハンドクラップが響き渡るなか伊東と篠田がステージに現れた。まずは、ちあきなおみの名曲「星影の小径」からこの日のライブはスタート。赤いレトロなワンピースにベレー帽という、そのキュートな出立ちからは想像もできないほど野太いシャウトを響かせる伊東に、オーディエンスの息を呑む音が聞こえてくるようだった。

 フルアコのエレキ・ギターからピックアップを搭載したアコースティック・ギターに持ち替え、続いて届けられたのは「ホームにて」。中島みゆきが1977年にリリースした5thシングルカップリング曲のカバーである。この【ダブルサイダーツアー】はタイトル通り2部構成になっており、1部では伊東と篠田が愛してやまない往年の名曲をカバー、2部ではT字路sのオリジナル曲をたっぷりと演奏する。中島みゆきは、伊東が歳の離れた姉から小学校低学年の頃に聴かされ、「歌詞の意味など当時はわかりもしなかったけれど、言葉にできないような“暗い魅力”に強烈に惹かれた」とMCで話していた。

 さらに、篠田がティーンエイジャーの頃に心酔していたTHE STREET SLIDERSから「のら犬にさえなれない」、そして篠田が6歳の頃、親に連れられてコンサートを見にいったというさだまさしの「まほろば」を続けて披露。まるで魂を振り絞るように歌う伊東のハスキーなアルトボイスを、篠田はウッドベースとエレキベースを曲によって持ち替えながら、芯のある低音で支えている。

「今回はいつものカバー曲に加え、新ネタとして演歌に初挑戦してみました」と伊東が言うと、フロアからは期待の声が上がる。そしてギターをかき鳴らしながら、〈お酒はぬるめの 燗がいい〉とおもむろに歌い出した瞬間、どよめきにも似た声が会場内に響き渡った。もちろん曲は、2023年12月30日に逝去した八代亜紀の「舟唄」。途中で“ダンチョネ節”を取り入れたドラマティックな曲構成や、情念のこもったマイナー調のメロディなど、八代の逝去後も折に触れ再評価されてきた名曲だ。2人はそれをミニマルな編成でカバーし、楽曲に内包されたロックなエッセンスを見事に抽出。エンディングでは〈歌い出すのさ 舟唄を〉と深いビブラートを効かせながら歌い上げると、割れんばかりの拍手が巻き起こった。

 後半はTHE BLUE HEARTSの「夕暮れ」、BO GUMBOSの「トンネル抜けて」などロックの名曲を立て続けにカバー。「ここからは、大ネタをバンバンぶっ込んでいきますよ!」と伊東が叫び、森進一の「襟裳岬」や玉置浩二の「メロディー」、そしてRCサクセションの「スローバラード」と畳み掛ける。シンプルなアレンジで原曲の持ち味を丁寧に引き出しながらも、伊東の唯一無二のハスキーボイスと、篠田の地を這うような低音が重なれば、それはもはや“T字路sの曲”だ。1部の最後には伊東いわく、「初めて聴いた時からふたりとも夢中になった」カンザスシティバンドの「新しい町」を披露。その軽快なリズムにオーディエンスはハンドクラップで応えた。

 休憩を挟み、恒例の「グッズ紹介コーナー」のあとは第2部がスタート。伊東がフルアコを力強くかき鳴らし始まったのは、T字路sを結成して間もない頃に作ったという「その日暮らし」。「オリジナル曲のみで構成された第2部では、ライブではそんなにやっていないけど私たちが大好きな曲を、この機会にやりたいと思います」そう言って「ふりこのように」を続けて披露した。さらに、歪んだエレキギターを刻みながら抑揚の効いたメロディを歌う「宇宙遊泳」を経て、アコギに持ち替えた伊東が〈悲しい悲しい 悲しい悲しい〉と連呼する、切ないミドルチューン「最後の手紙」へ。

 ギターをポロリと爪弾き、〈まるで夜が明けた/目覚まし時計の鳴り止まぬ/夢を見たまま〉としゃがれた声で歌いはじめたのは「蛙と豆鉄砲」。強さと優しさ、そして悲しみを内包する伊東の歌に、フロアのあちこちから歓声が上がる。そこから軽快な2ビートへとなだれ込み、半分から倍へと縦横無尽に変化していくリズムに体も自然に動き出す。半音進行のコードやシャンソン風のメロディが印象的な「暮らしのなかで」を経て「はきだめの愛」のイントロを伊東が奏でると、再び大きな拍手が会場いっぱいに響きわたる。体を大きく後ろに反らせ、チャック・ベリーばりのチョーキングを繰り出す伊東に、負けじと篠田もベースソロで応戦。ミドルバラード「夜明けの唄」では、フロアをまっすぐ見据えながら歌う伊東の姿が胸を打った。

 「これはコロナ禍でなかなか曲が作れなくなり、それでももがきながらようやく出来た曲です。コロナ禍もひと段落して、またこうしてライブが出来て、みんなの前で歌えることを本当に嬉しく思います。ほんと、よくぞ生き延びてくださいました!」と伊東が笑顔で言うと、オーディエンスの温かい拍手が会場を包み込んだ。そんなファンへのメッセージとばかりに「これさえあれば」「泪橋」と人気曲を繋げ、ベースリフから始まるお馴染みの「T字路sのテーマ」で本編は終了。アンコールではドラムに坂田学を迎え、坂田と共にレコーディングした新曲「美しき人」「マイ・ウェイ」を投下し、この日のライブを締めくった。

 なお、【ダブルサイダーツアー2025】の追加公演が、この後は5月1日に大阪・味園ユニバースで控えている。結成から15年で満を持してのメジャーデビューを果たしたT字路sが、ここからどんな景色を見せてくれるのか楽しみでならない。

Text by 黒田隆憲
Photo by hiro

◎公演情報
【T字路s ダブルサイダーツアー 2024-2025】
2025年4月11日(金) 東京・渋谷O-EAST


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