<インタビュー>【グラミー賞】Wノミネートの Luis Figueroaが語る、ラテン・ミュージックの進化と未来

2024年12月4日 / 18:00

 米フィラデルフィア出身のプエルトリコ系シンガーソングライター、Luis Figueroa(ルイス・フィゲロア)。ラテン界のスター、マーク・アンソニーの「Flor Pálida」のカバーが本人の目に留まったことで、アンソニーが主宰するレコード・レーベルと2016年に契約。昨年発表したアルバム『Voy A Ti』では【グラミー賞】と【ラテン・グラミー賞】にWノミネートされた。コンスタントに作品をリリースし続けている彼が、サルサをベースにしながらも、さまざまなジャンルを取り入れた最新アルバム『Coexistencia』や名門バークリー音楽大学に在学していた音楽知識を生かし、今後のラテン・ミュージック界のトレンドについて見解を示してくれた。

ーー2021年以来、1年に1枚というハイペースでアルバムをリリースしていますが、その原動力となっているのは?

アルバムをコンスタントに出すと決めた理由は、昔のアルバムが9曲から12曲収録されているのに対し、今のアルバムはEPのように6曲程度で構成されることが多いからなんだ。今の若い世代のリスナーは音楽に対する集中力が短く、さらに毎週大量の新曲がリリースされる状況を考えると、このフォーマットが適していると思ってる。

リスナーに短いアルバムを楽しんでもらうための戦略的な選択なんだ。大抵の場合、リスナーは1曲目や2曲目を聴いた後、残りの曲を流し聴きすることが多いから、フル・アルバムだと多くの曲が埋もれてしまうことがある。ハイペースだとコストもかかるけれど、そうしないと制作に何時間もかけた曲を無駄にしてしまうというリスクもある。だからこそ、もっと聴きたい、もっと欲しいと思わせるような短いアルバムの方がいいと考えたんだ。

実際、最初のアルバムは5曲、2枚目も5曲、そして今年初めて6曲を収録した。リスナーは過去のアルバムにも再び興味を持ってくれているから、結果的にこの選択は間違いではなかったと思う。単に新しい挑戦をしてみたかっただけなんだよ。

ーーなるほど。そういう理由でアルバムというフォーマットにこだわっていたのですね。

いくつかの曲を収録する中で、本当に良いと思う曲を選び抜いている。昔は、アルバムを聴くと「これはシングル曲で、これはアルバムの穴埋めだな」と感じることがよくあった。好きな5、6曲に絞り込んでいくことで、アルバムに違った空気感が生まれるし、より核心を突いた内容になると思うんだ。

ーー今年5月に発表された最新作『Coexistencia』では、より一段と様々なスタイルを取り入れることで、サルサの可能性を引き出しています。

いろいろなジャンルをミックスしたけど、サルサがベースで土台になることは変わらない。純粋主義者には受け入れられにくいこともあるけど、リスクを冒すことは常に挑戦だよね。リスクを取れば、素晴らしい結果になるか、大失敗するかのどちらかだ。自分はこれまで反抗心を持ってリスクを取り続けてきた。例えば、サルサには一見合わなそうに思えるギターリフやパッド音を加えてみたりね。

このアルバムはサウンドをフュージョンさせるという意味では実験的ではない。異なるジャンルとして書かれた曲にサルサを纏わせるんだ。ボレロやアーバン・ミュージックなど様々なジャンルを取り入れるけれど、最終的にいつもサルサになるのが好きなんだ。でもやや違う空気感がある。その作り方ゆえに、これまでとは違ったバイブスと感触があるということ。サルサのエッセンスを保ちつつ、サウンドを少し変えて、自分たちが共感し、インスパイアされる他のすべてのジャンルの大好きなものを注入したんだ。

ーープエルトリコ発の新しいトレンドやサウンドにはどんなものがありますか?

音楽は常に進化している。僕自身、アーティストであると同時に音楽リスナーでもある。この業界に入ったのも、音楽が大好きで、それを聴くのが大好きだったからだと思う。好きなアーティストの新しいアルバムを買って、その中にどんな工夫があるのか解剖してみるのが好きだ。それだけじゃなくて、ソングライティングも大好きだ。ソングライターやプロデューサーなど、舞台裏で活躍している人たちにも注目している。

プエルトリコだけじゃなく、チリ、パナマ、パラグアイなど、ラテンアメリカ全体のサウンドがマイアミで融合して新しい形になっている。クンビア、レゲトン、グバトン、サルサ、メレンゲ、メレンゲ・ポップ……あらゆるジャンルのサウンドが融合し、進化している。今後5年以内に、レゲトンだけでなく、あらゆるジャンルが進化を遂げると思う。なぜなら、今のキッズは実際にクールなものを作っているし、ラテン文化だけでなく、アメリカ文化、ヨーロッパ文化、あらゆる文化からインスピレーションを得ているからだ。

これはソーシャル・メディアのおかげだね。賛否両論あるけれど、個人的にとても気に入っていることのひとつは、世界中のさまざまな文化やカルチャーが重視されていることだ。日本から韓国、パナマまで、2000年から現在のトレンドまで、今起きていることは本当に素晴らしい。飽和状態とも言われるけれど、インスピレーションや創造性は史上最高レベルにあると思うね。

ーー同時に、リスナーが様々な種類の音楽やサウンドに対してオープンになることも促しますしね。

リスナーは以前よりずっとオープンになったと思う。それに、カタログ音楽を気軽に聴けるようになったことで、古いオールドスクールな音楽へのニーズや関心も生まれた。過去のサウンドに興奮する人が増えることで、過去と現在が同時に存在するような未来が見えてくるよね。
 
ーーでは、あなたのメンターであるマーク・アンソニーから受けたアドバイスで印象に残っているのは?

忍耐、忍耐、忍耐。この言葉は絶対に忘れない。この業界では、特にアーティストにとって忍耐は間違いなく美徳だと思う。僕たちはとてもペースが速い世界で生きていて、常に「もっと早く前進しなければ」と急いでいるけど、実は忍耐こそが足りないことが多い。周りの人たちがどんどん動いて音楽を発表しているのを見ると、自分も頑張っているはずなのに停滞しているように感じることがある。不思議なことに、前に進んでいるのにその場で足踏みしているような感覚になるんだ。だから忍耐は、僕が取り組もうとしている課題のひとつでもある。毎日少しずつ努力しているよ。

自分が次のことに焦っているのを感じるたびに、“今”を楽しむことを思い出そうとしている。たとえば今日なんかもそうだ。【ラテン・グラミー賞】の週で、何か月も前から楽しみにしてきた。ここで起きているすべてのことを本当に味わっているのは、今回が初めてだと思う。インタビュー、授賞式、会話を楽しみ、すべてを受け入れて満喫したい。なぜなら来年はまた状況が変わっているだろうから。だけど、多くの場合、こうした出来事はあっという間に過ぎ去ってしまう。そして一日の終わりには「何があったんだっけ?」とぼんやり思い出すこともある。キャリア全体を振り返ったときに、「そういえば覚えていない」なんてことには決してなりたくない。

ーー最後に、日本のリスナーにオススメしたいご自身の楽曲は?

「Almas Gemelas」と「Todas Menos Una」の2曲をすすめたい。同じアーティストが作った全く違うタイプのサルサ・ナンバーなので、ぜひ聴いてみてほしいね。


※このインタビューはソニーミュージック・ラテンとのパートナーシップのもと行われました。


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