<フジロック’24出演>ペギー・グー、画期的なDJ/プロデューサーへの世界的需要が急増している理由とは

2024年6月5日 / 18:00

Peggy Gou photographed by Aaron Sinclair on March 26, 2024 at Maison Celeste in Mexico City. Styling by Jocelyn Corona. Hair by Preston Wada at Rare Creatives. On-Site Production by 2PM Estudio. Bottega Veneta coat, AYANEGUI earrings.

By: Katie Bain / 2024年4月25日 Billboard.com掲載

 かつてベルリンの壁によって二分されていた広い大通りに面した、巨大な灰色のビルに設置された銀色の呼び出しボタンを押すと、広々として薄暗い、家具のない玄関ホールへの立ち入りが許可される。曲がりくねった階段を上り、一番上のドアを開けると、そこにはCEOのオフィスがある。韓国生まれのペギー・グーは、現在ダンス・ミュージック界で活躍する世界で最も需要のある女性DJ/プロデューサーに急成長した人物だ。

 ペギーのオフィスの中は、明るい天井の照明が4月上旬の雨の外とは対照的だ。広々とした部屋は、無機質な会社の聖域というよりは“友人のアパート”といった雰囲気だ。木製のミーティング・テーブル、本でいっぱいの本棚、豪華なグリーンのベルベットのソファがあり、そこからペギーのツアー・マネージャーが立ち上がって、ピースサイン型のコースターに小さなテラコッタのマグカップでペギーと私にブラックコーヒーを出してくれた。ペギーはバギー・ジーンズを履き、たくさんのタトゥーを覆うように黒いセーターを着て、シルバーの反射レンズがついたサングラスをかけているため時折チラリと瞳が見える程度だ。髪はルーズにまとめ、肌はキメ細かく、カジュアル・モードでもクールガールの魅力を放っている。彼女は軽く握手をし、窓を閉めて部屋が静かであることを確認すると、仕事に取りかかるために腰を下ろした。

 この12日間で、彼女の洗練されたハウス・ミュージック・ブランドは米マイアミ、メキシコシティ、そしてアルゼンチン・ブエノスアイレスへと彼女を連れて行った。もちろん、DJが大陸をまたいでパーティーをハシゴするのは珍しいことではないが、オフィスを持つことは典型的でない。だがペギーの物語は、もしそれが暗いテクノ・クラブの中で起こっていなければ、精力的な企業活動とも言えるビジネス感覚によって定義されている。

 白人男性が支配するシーンで韓国人女性として活躍する32歳のペギー・グーは、10年前に移住したベルリンのエレクトロニック・シーンにどっぷりと浸かり、昨夏に拡散されて自身初の米ビルボード・チャート・ヒットとなった「It Goes Like (Nanana)」のおかげで、白熱のプロデューサー/ファッション・トレンドセッターへと上り詰めた。世界の主要な音楽フェスティバルで常に上位に表示され、独ヴォーグの表紙を飾り、2024年の【ブリット・アワード】で<インターナショナル・ソング・オブ・ザ・イヤー>にノミネートされたことからもわかるこの新たな偏在性は、現地時間2024年6月7日に高名なインディーズ・レーベル、XL Recordingsからリリースされる彼女のデビュー・アルバム『I Hear You』に向けて丁寧に整えられた準備だったとも言える。

 有名アーティストにしては珍しくマネージメントを自身で手がけているペギーは、その成功の多くを自分一人で成し遂げており、私たちが座っている部屋は彼女の脳内司令部の延長として機能している。

Peggy Gou photographed March 26, 2024 at Maison Celeste in Mexico City. Sentimiento tracksuit, Tercer Mundo vest, Cruda shoes, AYANEGUI earrings and necklace. Aaron Sinclair 

 彼女は、「“あなたの人生をもっと楽にできる”と言うマネージャーたちに会ったことを覚えています。私は、“どうやって?教えて”と(尋ねた)。たとえあなたがこれらのメール全部を引き受けたとしても、私のところに戻ってこなければならない、だって誰も私のために決断することはできないから。すべての決断は私が下さなければならない(と伝えた)」と話す。

 これらの決断は、大規模なツアー、超有名ブランドとの契約、自身のレーベルであるGudu Records、グッズラインであるPeggy Goodsなど、幅広いビジネスを生み出した。世界各地に強力なファンベースを持つ彼女は、『I Hear You』のリリースに先駆け、またリリース後も米国での知名度をさらに高めていくだろう。

 XL Recordingsの米国キャンペーン責任者であるLaura Lyonsは、「ペギーは世界的に素晴らしいツアーを展開していますが、米国では過去に彼女があまり市場にいなかったため、彼女が直接いる瞬間を足がかりにし、また国際的で世界中を飛び回るDJの興奮を地元市場に伝える必要があります」と述べている。

 1週間後、ペギーは【コーチェラ・フェスティバル】のステージに立っていた。2018年に初めてこの世界有数の音楽祭に出演した時、午後3時に彼女が出演する予定だった完売のユマ・テントの周りをライブ待ちのファンの列が取り囲んだ。「一人でも私のセットを観られない人がいると嫌な気持ちになります。だから、“次はもっと大きなステージでやれるかな”って思ったんです」と彼女は振り返っている。

 2024年の【コーチェラ】初日、その“やれるかな”は“やる”になった。ペギーは【コーチェラ】で最大かつ最も確立されたダンス・ミュージックの聖地であるサハラ・テントで、巨大なLEDスクリーンに映し出された自身の絵文字が観客に微笑みかける中、そびえ立つステージの上から会場を取り仕切った。新しく拡張されたサハラ・テントの長さは約320フィート(約97メートル)で、その長さはフットボール・フィールドに匹敵し、女性の音楽プロデューサーを見るために集まった観客数はおそらく【コーチェラ】史上最大だっただろう。セット終了後に彼女はインスタグラム・ストーリーズで、バックステージでJ.バルヴィンとつるんだり、ウィル・スミスと仲良くなったり、コーチェラ・バレーのどこかにあるIn-N-Outでハンバーガーを食べたりしている自身の姿を公開した。

 ペギーは今年3月に米マイアミの【ウルトラ・ミュージック・フェスティバル】に、5月には大規模ダンス・フェスティバルの【EDCラスベガス】に初出演した。XL RecordingsのLyonsはこれらのステージについて、「認識という観点から言えば、アンダーグラウンドなエレクトロニック(ミュージック)のファンから、よりメインストリームのエレクトロニック(ファン)ベースへとオーディエンスを広げることになります」と言う。

Cueva top and skirt, Ket Void jacket, Cruda shoes. Floral Art Installation by Flores Cosmos. Aaron Sinclair

 それは一部の純粋主義者、特にベルリンの“テクノ信仰”文化に染まった人々には忌み嫌われることかもしれない。しかし、ペギーは爆発的なヒットを記録しながらも、アンダーグラウンドの信用を維持し続けている。4月上旬、『I Hear You』の3rdシングル「1+1=11」のミュージック・ビデオが上映されたのは、水曜日の午前3時までテクノが流れていたベルリンの煙たいクラブで、彼女の友達の輪には、フォー・テットやフローティング・ポインツといった尊敬されているプロデューサーたちがいた。「あの人たちが大好きなんです。すごくオタクっぽくて。“みんな、自分のドラムがどれだけファットかについて話すのやめなよ”って感じで」と彼女は言う。

 私はペギーに、彼女のアンダーグラウンドの血統と、近々リリースされるデビュー・アルバムの爽やかで親しみやすい雰囲気が相まって、ハウスやテクノといったいわゆる“アンダーグラウンド”なスタイルがライブ空間におけるシーンの有力な商業的勢力となっている米国において、彼女独特の適性を発揮するのではないかと提言した。彼女にとってその考えは的外れだった。ペギーは、「“彼女は本当にアンダーグラウンドだ”とか、“彼女は商業的だ”という人もいます。私には関係ありません。私はやりたいようにやり続けるだけなので、好きなように言ってくれて構いません」と述べた。

 韓国で3番目に人口の多い都市、仁川(インチョン)でキム・ミンジとして生まれたペギーは、“くだらないもの”、“いい音楽”、“何でも”聴いていたと言う。彼女は“超天才的で、すごいメンサIQの人物の一人”である兄の陰で暮らしていた。一方で彼女は、「勉強は苦手でした。反抗的でした。ここにいろと言われてもそこにいない。行けと言われれば残る。子どもの頃から人に指図されるのが嫌いでした」と振り返る。

 彼女の両親は、14歳の娘が韓国で“うまくいっていない”ことを認識し、英ロンドンで英語を勉強したいかと尋ねた。彼女はそうしたかった。英国では後見人と同居していたが、パーティーにこっそり出かけ、クラブ通いの習慣を身につけ、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションに入学した。彼女はDJを始め、ショーディッチのクラブで自身のレジデンシー(常設公演)をブッキングし、学校を卒業してベルリンに移り住み、昼はレコード店で働き、夜はテクノの洗礼を受けた。彼女はこの街にある入りにくいことで有名なテクノ・クラブ、ベルクハインに行き始めた頃について、「1か月後は“なるほど”って感じでした」とあっさり述べ、「3か月後は……」と言うと、彼女の声はより大きく、より力強くなり、「“なるほど”。5か月後に“やっとわかった”って感じでした」と振り返っている。

 2016年までにペギーは自分の音楽を作り、2018年には尊敬されているダンス・レーベル、ニンジャ・チューンがそれをリリースしていた。2019年に自身のGudu Recordsを立ち上げ、同年発表された、韓国語で歌ったグルーヴィーなハウス・トラック「Starry Night」はダンス界でヒットした。

 その間、彼女はツアーを続けていた。自分のマネージャーとして、「私を追い立てていたのは私だけです」と彼女は振り返り、「そこにいる必要はありませんでした。あんなことをする必要はありませんでした。テンションが上がっていたんでしょうね。ショー(をすること)、たくさんのショーができることに興奮し過ぎていました」と話している。2019年に彼女は、レバノン、エジプト、サウジアラビアのような、よく知られたダンス界のサーキットから遠く離れた国も含め、25か国で演奏した。

 ペギーは早口で、「新幹線を想像してください。それが2019年の私。止まるときはゆっくりではなく、超高速で止まらなければなりませんでした」と言う。

 新型コロナのパンデミックが始まった時、彼女は韓国に戻り、実家で3か月過ごした。14歳のとき以来、最も長い時間家族と一緒にいたことになる。世界最高峰のCOVID-19対策プログラムを導入していたといわれる韓国では、大規模なロックダウンもなく生活が続き、彼女は元気を取り戻した。ペギーは、「アジアの文化は違います。インフルエンザにかかるとマスクをしますから。だからアジア人がルールを守るのはそれほど難しいことではありませんでした」と説明している。

Peggy Gou photographed March 26, 2024 at Maison Celeste in Mexico City. Sentimiento top, Tiempos pants, Tercer Mundo belt, Frank Zapata shoes, AYANEGUI necklace. Batán Chairs by Taller Batán. Aaron Sinclair

 彼女は仁川で音楽に集中する時間と精神的余裕を手に入れた。大規模なツアーを行うDJの間でよく聞かれる、パンデミックに関連した意見に同調し、「多くの人にとって大変な時期でしたが、私にとっては最高の出来事の一つでした」と語っている。

 ペギーは2020年半ばにベルリンに戻ってからも活動を続け、パンデミック中に聴いていた90年代のダンス・ミュージックが“自分の好みを変えた”ことに気づいた。しばらくデビュー・アルバムの制作を続けていた彼女は、90年代のダンス・ミュージックをプロジェクトの中心に据えることを決めた。「Lobster Telephone」のような、粉砂糖を振りかけたようなトラックでのベースとチャイムの相互作用を聴けば明らかだ。「It Goes Like (Nanana)」のベースラインは、郊外の青少年世代にダンス・ミュージックを紹介した1995年のコンピレーション『Jock Jams』そのものであり、ルミネートによると、この楽曲は現在までに全米で7,220万回、全世界で5億6,530万回のオンデマンド公式ストリーミングを記録する原動力となっている。彼女が韓国語と英語の両方で歌っているこのアルバムは、全体としてダンス・ミュージックが最も洗練されたエッセンスに絞り込まれたものであり、このジャンルの筋金入りのファンでなくても夢中になれる。

 EDMのマキシマリズムとは正反対のサウンドを持つ『I Hear You』は、メインステージのエレクトロニック・ミュージックの未来を象徴しているのかもしれない。彼女は「自分のキャリアで、“私は今、次のレベルにいる”と思ったことは一度もありません。“Nanana”(がヒットした)時だけ、人々が私の顔より前に楽曲を認識していることに気づきました。その時、“うわ、これは違う”と実感しました」と話している。

 ペギーの世界的なエージェンシーであるWMEで、北米での代理人を務めるステファニー・ラフェラは、この楽曲の成功が“彼女の米国でのオーディエンスの大幅な増加”を生み出し、“彼女への需要は増すばかりだ”と語っている。ラフェラは、ペギーの“様々な分野にまたがる超熱狂的なファン層”に報いる機会を設けると同時に、彼女を新しいリスナーに紹介することにも注力している。

 Lyonsは、「“It Goes Like (Nanana)”がこの夏のグローバル・ソングとなり、ペギーにとって初めて全米ダンス・ラジオ・チャートで1位を獲得したことは、このアルバムを、そして彼女が米国で達成できると私たちが信じていることを方向づける素晴らしい出来事でした」と話している。

 そして2022年、ペギーは米マイアミの友人宅で休暇を過ごした際、感謝祭のディナーでたまたまレニー・クラヴィッツの向かいの席に座るという幸運に恵まれた。その時について彼女は、「彼は私が誰なのかまったく知りませんでした。(彼の娘)ゾーイの映画(“THE BATMAN ザ・バットマン”)で(2曲)やったことくらいしか言えませんでした」と振り返るが、それは彼の興味を引くには十分だった。二人は七面鳥を食べながら話し、彼女の友人はクラヴィッツにペギーの音楽をチェックするように言った。それから間もなくして、彼は彼女にコラボしないかと声をかけてきた。

 彼女はクラヴィッツにトラックを送った。ザ・ウィークエンドやギヴィオンなどのアーティストに断られ、シンガーを見つけるのに苦労していた曲だ。だが返事は来なかった。「それで、(クラヴィッツが住んでいる)バハマに行くことにしたんです。友人に、“レニー・クラヴィッツをアルバムに参加させたいんでしょう?さっさとフライトを予約して行って取ってきなよ”と言われたんです」と彼女は語る。彼女は、“私は完璧主義者で、彼も完璧主義者だから”レコーディングの過程では“意見の衝突”があったというが、最終的にクラヴィッツは、二人の意見が対立していた曲の一部について、彼女が正しかったと言ってくれたと、ペギーは笑顔で付け加えた。しなやかな「I Believe in Love Again」は、『I Hear You』の2ndシングルとして2023年11月にリリースされた。

 そもそもペギーはその確固たる職業上のチェス・ムーブによってXLとの契約を実現させたが、実は何年も前にロンドンで学生だった頃、インターンシップについて同レーベルに問い合わせていた。XLはその時は返事をしなかったが、彼女の2018年のシングル「It Makes You Forget (Itgehane)」の成功後に連絡を取ってきた。XLとの最初のミーティングについて彼女は、「ジョークは言いましたよ。“受信ボックスを確認してくださいよ”って」と話している。

 ペギーは、自分と一緒に仕事をするのは「とても難しいです、だって私はチームを常に厳しく追い込むから」と認め、「たくさんの意見を持っていて、しかも女性であればビッチと呼ばれたりしますが、(XLは)そうは見ていません。彼らは、明確なビジョンを持っている人と仕事をするのは楽しいことだと思っています」と彼女は述べている。

 XL側としては、エレクトロニック・ミュージックを作っている最も人気のあるアーティストの一人であるということだけで、ジャンルそのものの様相を変えつつある才能との仕事も楽しんでいるのだろう。自身もアジア系アメリカ人であるLyonsは、「韓国人女性がダンス・ミュージック・カルチャーの一角を占めているのを見るのは素晴らしいことですが、私が彼女に興奮する理由はそれではありません」と言う。

 『I Hear You』のリリースに向けて、新たなレベルのストリーミングやチャートでの成功は素晴らしい結果だが、ペギーからしてみればそれは“表面的な望み”だ。人々がこのアルバムを聴き、“何かを感じてもらえれば”成功だと思うと彼女は胸に手を当てながら言う。

Bottega Veneta coat, AYANEGUI earrings. Aaron Sinclair

 【コーチェラ】では、観客の多くが“何かを感じていた”のは明らかだった。日はとうに沈んだというのにペギーのようにサングラスをかけている人が多く、腕を振り上げ、夢見るような笑顔を浮かべながら体を揺らしている人たちがいる。ステージ上では6人のダンサーがポップ&ロックやヴォーグなどの動きを繰り広げ、くるくる回っている。ペギーはこの夏、【プリマヴェーラ・サウンド】、【グラストンベリー】、【クリームフィールズ】といった欧州のフェスティバルを含むツアーでこのステージを披露する。8月には、ロンドンのガナーズベリー・パークで1日限りのミニ・フェスティバルを開催し、ヘッドライナーを務める。 このフェスの8,000枚のチケットは発売後数日で完売した。

 一人でツアーをしていた初期の頃とは異なり、ペギーは現在、ツアー・マネージャーと二人ほどのロード・アシスタントと一緒に移動している。「いつもプライベート・ジェットで移動するわけではない」というが、彼女にとってプライベート・ジェットとはその効率性が一番目の魅力で、それを好む自身のヘリテージ(伝統)の一部なのだ。彼女は、「時間を無駄にするのが好きではない人なんです。私は非常に効率的なんです。それは韓国の文化からきていると思います。韓国では効率性がとても重要なのです」と話している。

 そしてプライベート・ジェットを利用すれば、「時間を大幅に節約できますし、30分でも1時間でも多く眠ることができます。荷物の重さを気にする必要もないですし」と続ける。だが彼女にとっておそらく最も重要なのは、プライベート・ジェットを利用すると最大限にコントロールを保ちながら世界中を移動できるということだろう。「ホテルのロビーや空港はとても不安になるんです」と彼女は言う。

 最近では、ペギーのチームには警備部隊も加わっている。ストーカーや“ホテルや空港で10時間も待っている”人たちを体験しているからだ。“イタリアには一人では行けない”と彼女は言い、観客が“かなりワイルド”なアルゼンチンには警備員を二人連れて行く。スペインのイビサ島への民間フライトでは、搭乗中に機内の半分が彼女に気づいたため、ずっと窓を向いて過ごしたという。「“首が……”って感じでした」と彼女は笑いながら痛みを装って言い、「それはいいことなんですが、ときどき辛くなることがあります」と語っている。

 ペギーのツアー・マネージャーは、「彼女は空港で100メートル先を見ることができます。物の色に気づき、人の服装を覚え、とにかく非常に敏感なんです、特に人が大勢いるときには」と言う。とはいえ、キャリアを重ねるにつれ、彼女は打たれ強くなってきた。ペギーは、「最初の頃、“あなたはあの人よりもビッグにはなれない。誰もあなたのレコードなんて買わない。誰もあなたの名前なんて知らない”と言われたのを覚えています。そういうことを何度も聞きました」と振り返る。

 それらの批判に“以前は本当に影響を受けました”という彼女は、「“そんなの嘘だ”と叫びたくなったものです」と言う。だが時間が経つにつれ、自分の気持ちが傷つくのは自分のせいだと気づいた。「私は幸せではなかったんです。とても集中していて、視野が狭かった。ボーイフレンドとの関係もうまくいっていなかった。友達も仕事も、何もかもが幸せではなかった。パンデミックの間に、自分自身について多くのことを学びました」とペギーは話している。まず話を聞いてから、後で対応することを学べたのは彼女にとって大きかった。アルバムのジャケットで耳が反射している鏡のヘッドピースをつけているのも、プロジェクト名を『I Hear You』としたのもそのためだ。

Sentimiento tracksuit, Tercer Mundo vest, AYANEGUI earrings and necklace. Aaron Sinclair

 ペギーが経験した初期の最大の批判の一つは、彼女のファッションへの興味を良しとしないもので、“真剣に受け止めてもらえないのではないか”という不安を彼女に抱かせた。そのため、ベルリンでの最初の数年間、彼女は事実上のDJのユニフォームである黒(時には白)のTシャツを着ていたが、自分らしくない格好だと感じていた。その頃、メンターから「自分が弱点だと思うことを強みに変えなさい」と言われ、彼女はTシャツをやめてクチュール・スタイルにした。

 色鮮やかで流れるようなセットアップやレーシング・ギアを身にまとった彼女は、ルイ・ヴィトンのような一流メゾンの目に留まり、2度のパートナーシップを結んだ。親交を持っていたヴァージル・アブローが2021年に死去した際、彼女はインスタグラムに、「私のキャリアの黎明期、サポートしてくれる人が多くなかった時期にヴァージルがそうしてくれたことに永遠に感謝します」と投稿した。彼女自身のPeggy Goodsラインは、公演のたびにカスタムメイドのグッズを制作している。「1+1=11」ミュージック・ビデオの上映パーティーでは、曲のタイトルが背中に刺繍されたボンバー・ジャケットを着ている人が複数いた。

 そういったファビュラスなすべてを、ペギーは410万人のフォロワーを持つ自身のインスタグラムで記録している。自身で運営しているこのアカウントは、彼女にとっては以前使っていたTumblrの自然な進化形であり、そこでは自分の衣装や食事、外出の写真を投稿していた。現在はインスタで同じアプローチを使っているとはいえ、衣装はフェラガモで、食事はイビサ島のビーチで、外出は彼女の名前を叫ぶ何万人もの人々の前での演奏だ。彼女の華やかな美学とオーディエンスの大きさは、ドン・フリオ、コカ・コーラ、メイベリンなどのブランドとの契約につながっている。

 今、他のDJたちは、どうすれば自分のブランドをファッションの世界に広げることができるかを彼女に尋ねている。推測の域を出ないが、最も明白な答えは、彼女と同じように懸命に働くことだろう。「今はロールスロイスに乗っているように見えますが、昔はバスに乗っていたんです。最近韓国でインタビューを受けたんですが、最初の(コメントは)“世襲財産の匂いがする”でした。いいえ、父は貧しかったです。母は平凡でした。私は金持ちの家系ではありません。華やかな生活を送るために懸命に働いたんです」と彼女は語っている。

 大成功を収め、それに伴う知名度を獲得した人たちの多くがそうであるように、ペギーもいまだに人々から批判されている。だがボスらしく、彼女はそれを楽しむようになった。「今、批判を耳にすると、それはとてもうまくいっているということです。だからどうぞ、私の名前を言ってください」と彼女は語っている。

◎公演情報
【FUJI ROCK FESTIVAL ’24】
期間:2024年7月26日(金)、27日(土)、28日(日)
会場:新潟県 湯沢町 苗場スキー場
※ペギー・グーの出演は26日となります。
<一般発売>
3日通し券:60,000円、1日券:25,500円、金曜ナイト券:16,000円
Under22 1日券:18,000円

INFO:FUJI ROCK FESTIVAL
https://www.fujirockfestival.com/


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