<ライブレポート>aiko 圧倒的な歌唱力と無尽蔵のスタミナで興奮のるつぼと化した、約10年ぶり日本武道館公演

2024年3月8日 / 20:00

 aikoが、4都市全8公演のアリーナツアー【Love Like Pop vol.24】の追加公演として、2月29日、3月1日の2日間にわたり東京・日本武道館にてワンマンライブを開催した。2日目の3月1日、ダブルアンコールに応えたライブは3時間以上に渡り、終演時間は音出し可能ギリギリの21時50分。じつに約10年ぶりに立った日本武道館のステージを、aikoは我が家のように縦横無尽に駆け回り、ファンと共に武道館ライブを存分に楽しみ尽くした。

 オープニング映像の森の中、ランタンがつるされた木々を進んで行くと、ツアータイトルが映し出される。ピアノの打音に導かれてステージの幕が下り、真っ赤な衣装に身を包んだaikoが現れて、場内は大歓声に包まれた。緩やかなリズムに乗せて始まったのは「ぶどうじゅーす」。後のMCで、「武道館だから『ぶどうじゅーす』」と明かされたように、10年振りの武道館を象徴した選曲だったようだ(なお、日本武道館公演初日の1曲目は「アップルパイ」)。

 おなじみのバンドメンバー[浜口高知(Gt.)、設楽博臣(Gt.)、須長和広(Ba.)、神谷洵平(Dr.)、朝倉真司(Per.)、佐藤達哉(Key.)、島田昌典(Key.)]との息もピッタリに歌い終えると、すぐさま歌い出した「58cm」の弾むリズムに手拍子が起こり、華やかなホーンセクション[川原聖仁(Trb.)、斎藤幹雄(Tp.)、小林太(Tp.)、庵原良司(T.Sax.)]に背中を押されるようにステージ左右を移動しながら歌うaiko。「桜の時」、続く「アップルパイ」ではスタンド前まで足を運んで客席の至近距離で歌い、ハイタッチを受けた女性ファンは感激の様子。男性ファンが掲げたスケッチブックを受け取りめくると「祝25周年」「感動」「こんなに近くで会えるなんて」と描かれており、aikoはスケッチブックを見せながらカメラに向かってにっこり。ビックバンドサウンドと飛び交うレーザーが気分を高揚させる「夢見る隙間」では、ハンドクラップで会場が一体になる。開始20分ほどで武道館があっという間に多幸感あふれる空間となった。

「みなさんこんばんは、aikoです! みんな平日やのに来てくれてありがとう。今日はみんなと楽しい時間を一緒に過ごそうと思います」

 MC中も頻繁にステージに向かってかけられる客席からの声に応えながらトーク。大きな舞台であっても部屋で話しているかのような、ファンとの距離の近さは変わらない。

 ビジョンに歌詞が映し出され、美しいストリングスの音色にも引き込まれた「あたしたち」、軽快なパーカッションも爽やかな「ぬけがら」等、aikoの歌声が描く情景を卓越した演奏陣が、最大限の解像度で輪郭をくっきりと見せていく。ホーンセクションがリードする「寒いね…」では、ステージを歩きながらソウルフルなボーカルを聴かせるaiko。ロングブレスで歌い上げた後にトロンボーン、サックスのソロ掛け合いに繋がって曲が終わると、衣装をチェンジ。ストリングスとクラリネットの演奏に乗せて歌った「のぼせ」はまるで童話の世界のようだった。三拍子の「恋人同士」では、室屋光一郎のバイオリンが大きくフィーチャーされ、終盤ではaiko、室屋、設楽が並んで座りながら演奏して拍手喝采がおきた。

「aiko大好き~!」の声援に「もっと言って!」と返すaiko。「気づいたら25歳っていう人もいるでしょう? 私もデビューして、気づいたら25年経ってただけで、心の中は新人のつもりというか、もっともっと曲を作っていきたいなって。これからも嫉妬深さとみんなへの想いと音楽に対する気持ちはどんどん、年を重ねるごとに増していくと思います。ひょうきんで面白くてヘンタイな歌手になれるように(笑)。これからもがんばります」

「アタック24.5メドレー」と題したコーナーでは、「ドライブモード」から始まり「さよなランド」まで、計10曲を次々と披露。高音パートを歌いきる迫力の歌唱をさりげなく聴かせる「カブトムシ」、ステージ上段に登場したストリングスチームを従えた「ドライヤー」、大きな手拍子を受けながらステージ前に腰掛けて歌った「二人」、伸びやかな歌唱でゴスペルチックな一体感を生んだ「果てしない二人」等、日本屈指のボーカリストであることを知らしめたメドレーだった。

 MCではバンドメンバーとの気心の知れたやり取りで、場内が笑いに包まれる。キーボード佐藤との会話では、前回の日本武道館公演で、ストリングスと「瞳」を演奏したときに緊張したというエピソードを聴くと、唐突に〈健やかに育ったあなたの〉と同曲をアドリブで歌い出し、バンドも加わってそのまま1曲披露。戸惑いながらも演奏した佐藤が「男子! 女子! そうでない人! メガネ! コンタクト! 裸眼! レーシック! 全員!」と煽りを入れてから「星の降る日に」へ。軽やかな16ビートに乗ってステップを踏みながら歌うaikoがメンバー紹介の最後に「そしてボーカルは!」と呼び掛けると、「aikoー!」と会場中から声が上がり、客電が一斉について、星をかたどったシルバーの紙吹雪が舞い上がった。「飛行機」では一転してマイナー調のドラマティックな音像で、バンドアンサンブルが大空を思わせるサウンドスケープを見せる。躍動感たっぷりなポップチューン「荒れた唇は恋を失くす」にのせて銀色のテープが客席に放たれ、aikoはステージを後にした。

「月が溶ける」から始まったアンコールでは、今日でツアーが終わることを口にしたaikoに「やだ~!」とあちこちから声が飛ぶ。「みんなに会えるっていうことを目標に、それを糧にして生きてきたから、それがいったん終わってしまうのはさみしい。だからまた早くライブができるようにがんばります」と心境を吐露すると、大きな拍手が沸き起こった。また、4月12日公開のアニメ『名探偵コナン』劇場版27作目『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』で、主題歌「相思相愛」を担当することになった経緯について、『名探偵コナン』のスタッフから依頼を受けた際に、どんな曲が良いか訊くと「aikoさんが曲を書いてくれたら、どんな曲でも構いません。aikoさんが書いた曲が良いんです」と言ってもらったと明かし、「めっちゃ嬉しかった。楽しみにしていてほしい」と語った。

 客席から受け取ったハイクオリティなうちわを紹介したり、ファンイベントのフライヤーを受け取り、庵原が吹く『名探偵コナン』のテーマ曲に合わせて読み上げたりと、最高のファンサービスで楽しませたあとは、いきなり「イジワルな天使よ 世界を笑え!」を歌い出す。そのワイルドなパフォーマンスに両手を掲げて応えるオーディエンス。この曲で定番のコール&レスポンスのポーズをレクチャーして、会場中が最高にハッピーなムードに包まれ、「ストロー」で繰り返し〈君にいいことがあるように/あるように あるように〉とメッセージを送ると、メンバー一同が手を繋いで最後の挨拶……かと思いきや、「まだ終わりたくないんです!」。

 10年ぶりの武道館がここで終わるわけがない。やっぱりダブルアンコールへ。バンドの演奏に先駆けてアカペラで歌い出した「メロンソーダ」「未来を拾いに」とメンバー間を縫うように移動しながら歌い、「もっともっと歌いま~す!」と叫ぶと、ギターを合図に「ボーイフレンド」が飛び出した。荒っぽい怒涛の演奏に乗せて熱唱するaikoに、会場は大合唱。「次~!」と高速BPMで「beat」を披露すると、「名残惜しいのはやまやまですが、次で最後です!」と、「be master of life」へなだれ込んだ。自由奔放にステージを駆け回りながら歌うaikoに負けじと、メンバーは飛び跳ねたりヘドバンしたり、挙句の果ては佐藤がキーボードを担いで東スタンドまで走り、観客に弾かせるシーンも。武道館は興奮の坩堝と化して、最高潮の盛り上がりの中でエンディングとなった。

「みんなありがとうございました! 時間がな~い! さようなら!」と急ぎ足で舞台袖まで移動すると「明日のライブは、オーイシマサヨシ君です! さようなら! aikoでした!」と、武道館の翌日のスケジュール予告までしてステージを去ったaiko。観客の期待を大きく越えて、本当の限界ギリギリまで存分に楽しませようというサービス精神と無尽蔵なスタミナ、圧倒的な歌唱力で繰り広げたパフォーマンスに、しばらく余韻が抜けなかった。

Text:岡本貴之
Photo:岡田貴之

◎公演情報
【Love Like Pop vol.24】
2024年3月1日(金) 東京・日本武道館

▼セットリスト
1. ぶどうじゅーす
2. 58cm
3. 桜の時
4. アップルパイ
5. 夢見る隙間
6. Yellow
7. 密かなさよならの仕方
8. あたしたち
9. ぬけがら
10. 寒いね…
11. のぼせ
12. 恋人同士
13. アタック24.5!メドレー
ドライブモード~赤い靴~合図~カブトムシ~ドライヤー~Loveletter~二人~果てしない二人~くちびる~さよなランド
14. 星の降る日に
15. 飛行機
16. 荒れた唇は恋を失くす
En1. 月が溶ける
En2. イジワルな天使よ 世界を笑え!
En3. ストロー
WEn1. メロンソーダ
WEn2. 未来を拾いに
WEn3. ボーイフレンド
WEn4. beat
WEn5. be master of life


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