GAUZEのスリリングなサウンドが真っ直ぐに飛んでくる日本ハードコアパンクの傑作『EQUALIZING DISTORT』

2023年11月15日 / 18:00

今週は日本のハードコアパンクの先駆けとして、海外でも知られるバンド、GAUZEを取り上げる。1981年結成。40年以上の長きに渡って活動を続けてきたが、昨年11月26日、事前告知なしで、招待者のみによるライヴを開催したその翌日、公式Twitterで解散が発表された。メンバーの体調不良というのがその理由のようで、今も彼らの解散を惜しむこえは国内外で散見される。解散から1年を前に、そんなGAUZEの代表作である『EQUALIZING DISTORT』を聴いてみた。
担当編集者お薦めの作品

今回は楽屋落ちがだいぶ含まれることを読者の皆様にご容赦願いたい。ありがたいことに、と言うべきであろう。当コラムで取り上げるアルバム作品のチョイスは、筆者の独断で決めさせてもらっている。もちろん担当編集者からは“あのバンドならこっちもありですよ”くらいの助言はあるし、何か突発的なでき事があった時などはそれに関連づけて“今週は○○でしょうね”と連絡があることはある。だが、それ以外の平場で、“この人は止めておきましょう”などと言われたことはない。まったくなかったと言い切ってもいいと思う。そればかりか、コーナー内コーナーである【独断による偏愛名作】の立ち上げたいと提案した際にも、“いいですよ”とふたつ返事でOKしてくれた。当コラム担当編集者は、こちらの企てにほぼ口を挟まず、スムーズに仕事をさせてくれる、何とも懐の深いは人物なのである。ただ、そんな氏も時折、自己主張をかましてくることがある。それは主にアーティストのインタビュー取材の前後のことが多いのだが、“これを…”と、黒地に赤いショップ名が入った某中古レコード店の袋を渡される。中身はCDが4、5枚。それを見てこちらが“あらぁ…よくこんなの手に入れましたね”なんて返そうものなら、誇らしげな笑みを見せる。本当に音楽が好きな人だ。OKMusicはそんな人が手掛けている音楽媒体である。筆者の駄文はともかくとして、音楽好きの読者の皆様においては信頼していいサイトではないかと思う。

GAUZEの2ndアルバム『EQUALIZING DISTORT』は、そんな担当編集者が笑みを湛えて渡してきたもののひとつである。預かったのは少し前のことだった。いつ取り上げようかとタイミングを計っていたのだけれど、みなさんもご承知の通り、今年は訃報が相次いだこともあって、なかなか本作を取り上げる機会がないままにここまで来た。下手すると、そのまま失念していたかもしれない恐れもあった。ところが、ある日、ボケっとInstagramを眺めていると、その担当編集者のポストが流れてきた。K-POPのアーティストのライヴ取材に赴いたところ、ライダースにマーチンというロック仕様の出で立ちのため、会場で浮きまくっている──そういう内容だった。一瞬“K-POPのライヴには何を着て行けばいいのだろう?”と思ったけれど、今後自分は自発的にK-POPのライヴに行くことはないだろうから、考えても仕方がないと思い、そのポストを見返すと、ライダースの下はバンドTで、“ちなみにGAUZE”とそのプリントまでご丁寧に紹介してある。バンドTはバンドTでも、世界に冠たる有名バンド(THE ROLLING STONESのベロのヤツとか、柄もデザインも派手なヘヴィメタル系とか)ならまだ分からなくもないけれど、よりによって日本のハードコアパンクバンドとは、相変わらず信頼のおける人である。まさか氏が自身のInstagramを介して“そろそろGAUZEを書けよ”と遠回りに私に伝えようとしたのではあるまいが、無言の圧力を感じるところではある。リード文でも書いたように、GAUZE のラストライヴが2022年11月26日であって、その1年後となる2023年11月に『EQUALIZING DISTORT』の紹介文を書こうとは企てていた。若干繰り上げた感じではあるが、今週取り上げたのはそんなわけである。
パンクをより凝縮したサウンド

延々と楽屋落ちで申し訳ない。ただ、そうしたのも訳がある。GAUZEは現在ネットで入手できるバンド情報が極端に少ないのである。Wikipediaにはその経歴、ライヴ活動の項目が結構な分量で書かれてはいる。関わりのあった方々が思いを寄せたブログはいくつもあった。しかし、いわゆる一次情報を発信しているサイトは終ぞ発見できなかった。公式サイトはないようだし、“@GauzeOfficial”から発信されている旧Twitterも、解散の報告以降はポストされていないようである。日本を代表するハードコアパンクバンドということは筆者の肌感覚として分かっているし、1981年結成、2022年11月解散というプロフィールは合っているようだ。CDショップの通販サイトから見て、1st『FUCK HEADS』(1985年)、2nd『EQUALIZING DISTORT』(1986年)、3rd『限界は何処だ』(1990年)、4th『面を洗って出直して来い』(1997年)、5th『貧乏ゆすりのリズムに乗って』(2007年)、6th『言いたかねえけど目糞鼻糞』(2021年)という計6枚のオリジナルアルバムを発表していることも間違いなさそうではある。バンドメンバーは…というと、当サイトの“GAUZE(ガーゼ)の情報まとめ”にこうある。〈もはや体力の限界をはるかに超えながらもフルスロットルで繰り出されるモモリン(g)、シン(b)、ヒコ(dr)のたたきつけるような音塊(ノイズ/カオス/バイオレンス)と、フグ(vo)の機関銃のように連射される言葉は、互いのテンションをヒートアップさせながら“原子爆弾”と化す〉。裏取りすることなく出せる情報はこのくらいである。それは、どうやらバンドの信条にもよるところのようで、その辺は後ほど述べるが、GAUZEの一次情報が入手できないため、延々と楽屋落ちを繰り広げたところはある。Wikipediaに掲載された情報はおそらく熱心なファンの方々がお書きなったもので、それはそれで間違ったものではないだろう。しかし、熱心なファンの方々がお書きなったものであれば、なおのこと、ちょいと拝借するわけにもいかない(そもそもあの分量はちょいと拝借できるものでもない)。よって、こういう文章の流れになったことをご理解いただきたい。GAUZEのバイオグラフィを詳しく知りたい方はWikipediaが詳しいのでそちらをご覧いただくのがよろしいかと思うし、当サイトの“GAUZE(ガーゼ)の情報まとめ”もおすすめしたい。

ここからは、『EQUALIZING DISTORT』について述べてみたい。本作に関してもまた一次情報が見当たらなかったため、100パーセント筆者の主観であることを事前に申し上げておく。ハードコアパンクというと、読者のみなさんはどんなイメージを抱くだろうか? 字義通りに捉えれば、パンクという音楽ジャンルの中の文字通りの強硬派ということになるし、それこそWikipediaによれば[パンク・ロックのロックン・ロール色を排し、より暴力性や攻撃性を強調したジャンルである]とある([]はWikipediaからの引用)。もっと噛み砕けば、パンクほどには親しみやすさがなく、騒々しく、危険な音楽となるだろうか。実際、そう思っている人もいらっしゃるかもしれない。そう認識されているのであれば、それはそれでいいのだろう。ただ、今回『EQUALIZING DISTORT』を聴いて、これはパンクから何かを排し強調したということではなく、パンクをより凝縮した音楽ではあると思った。誰もが一聴して感じるのはテンポの速さだろう。初期ロンドンパンクがスローモーに感じるほどに、全曲、性急と言っていいリズムが刻まれている。大半がブラストビートだ。しかし、全てそれ一辺倒かと言えば、そうではない。M4「勝手にさらせ」やM5「Fact and criminal」が分かりやすいけれど、イントロでは各楽器の音符の数が減っていて、少しテンポを落としたように聴こえる。これによって、速さが増したようにも感じるし、M3「Thrash Thrash Thrash」からM4に移る時、あるいはM4からM5へ移る時に、安堵…という言い方は適切ではないけれど、それに似た、アルバム作品ならではのメリハリを強く感じるのである。速さはハードコアパンクにとって、GAUZEの音楽にとって重要な要素であろうが、闇雲に速さだけを追い求めているのではないことがこの辺から想像できる。
反骨精神に溢れたテーゼ

アルバムとしてのメリハリだけじゃなく、個々の楽曲にキレがあるのが『EQUALIZING DISTORT』であって、引いてはGAUZEのサウンドの特徴でもあろうか。ハードコアパンクを単調と斬り捨てる御仁もいるようだが、少なくとも、ことGAUZEにおいてそれは違うように思う。本作収録曲には、ちゃんと展開がある。概ねA→B→A→Bというスタイルではあるものの、それにしても、それぞれのブロックで同じ音符が同じ長さで並んでいるのではなく、1小節の中にも確かな抑揚がある。言ってしまえば、キャッチーなのである。ギターリフはもちろんのこと、ベースも派手な動きを見せる箇所も多く、ドラムのフィルインも豊富だ。楽曲内にブレイクがある楽曲も多く、しかも、これがまたピタッと気持ち良く決まっている。最もキレを強く感じるのはそこだろう。おそらく一発録りなのだろうが、それにもかかわらず、このブレイクの気持ち良さは、演奏陣の確かな手腕とメンバー間の息の合ったところ、もっと言えば、ライヴで研さんを積み重ねたバンドならでのことと言えるだろう。ヒリヒリとした緊張感がアルバムを通して持続していくのも、そうしたバンドスキルによるところだろう。また、Wikipediaには[ロックン・ロール色を排し]とあったが、ロックらしいリフレインも多く──というか、ほとんどがそうで、決してロックの文脈からは離れていないと思う([]はWikipediaからの引用)。M2「Crash the pose」やM9「Distort Japan」辺りはOiパンクを彷彿させる歌唱もあって、パンクを凝縮したものがハードコアパンクであるという自説を裏付けてくれているようにも感じるところではある。

ただし、ヴォーカルがサビ以外は全編に渡って高速であって、メロディーを歌っているというよりも、叫びと言っていいスタイルなので、そこでのキャッチーは皆無だ。歌というよりは、マイクを使って音源に言葉を詰め込んでいるという印象で、そこで聴き手が分かれることは無理からぬことであろう。また、楽曲のテンポが速いことに加えて、そのタイムも1、2分なものばかりなので、“これはカッコ良い!”と思っても、すぐに次のトラックへ移ってしまう。間違っても、まったりと聴いている暇はない。よって、接し方はポップスなどのそれとは自ずと変わってくる。極端な言い方をすれば、聴いている側にも演者と同様のテンションがなくてはならないだろうし、誤解を恐れずに言うのであれば、聴き手に緊張感を強いてくる音楽なのである。アルバムトータルの収録時間は18分弱。48分弱の間違いではない。決して長くない…どころか、はっきり言って、巷にあふれる他のアルバムに比べたら極めて短い音楽作品である。しかし、本作では、その短さは中身の薄さには繋がらない。聴く方には相当の集中力が必要だし、覚悟もいる(おそらく集中力も覚悟もない人が聴いた場合、単調であったり、騒々しいであったりという感想になるのだろう)。その意味では、少なくともGAUZE『EQUALIZING DISTORT』はまったくポップミュージックではないし、“ハードコア”パンクというのは言われる所以がそこにあるのだろう。

当コラムの締めは、収録曲の歌詞を引用して、その作品やアーティストのテーマ、メッセージを浮き彫りとすることが多いのだが、前述した本作並びにハードコアパンク作品の接し方に反するという理由から、今回は歌詞の解説は止めておく。その代わりに…というのも若干失礼な話かもしれないが(ご容赦あれ)、本作の歌詞カードの裏にあった一文を引用させてもらう。

私利の為に要領よく この業界を利用してあぶく銭を儲け 何もわからない奴らを必要以上にでっち上げ 商業主義に走る 団体その他を 俺達は断固批判する(『EQUALIZING DISTORT』ライナーノーツより)

反骨、反逆精神にあふれている。彼らはこのテーゼを貫いたのだろう。GAUZEの情報がおいそれと入手できなかったこともよく分かる。商業主義に走る 団体(つまり多くの音楽専門誌やサイト)はGAUZEを簡単に取り上げることがなかった。取り上げることができなかったと言ってもよかろう。その結果、彼らの情報はネットにあふれていないのだ。それもまた“ハードコア”な話だ。このOKMusicはどうかと言えば、K=POPのライヴにGAUZEのTシャツで行くような人が編集をしていて、その人は筆者に無言で『EQUALIZING DISTORT』を渡すような人物でもある。サイトやフリーペーパーの運営はビジネスだし、そこに商標主義はあろう。ただ、そこで働く人の魂は間違いなく“ハードコア”ではある。
TEXT:帆苅智之
アルバム『EQUALIZING DISTORT』
1986年発表作品

<収録曲>

1.Pressing On

2.Crash the pose

3.Thrash Thrash Thrash

4.勝手にさらせ

5.Fact and criminal

6.パッパッパ

7.Low charge

8.Absinth trip

9.Distort Japan

10言いなり~Children fuck off


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