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音楽は全て私のチョイスです。こういうシーン、こういう状況だったらこの音楽は意味があるかなと考えながら一つ一つ選んでいきましたが、いろんな人たちの意見も聞きましたし、私自身もたくさんの音楽を聞きました。ただ、気に入ったものを全て選べたというわけではありません。例えば、ダリダの歌が流れるシーンがありますが、実はあそこはセリーヌ・ディオンの歌を使いたかったのですが使用料がとても高かったんです。ダリダも決して安くはなかったんですけど(笑)…。でも結果的にはダリダでよかったと思います。つまり第2の選択が実は一番いい選択だったということもあるということです。一番目が駄目な時は想像力を働かせて、より良いものを見つければいいということを今回知りました。
ティボは有名な才能ある指揮者として活躍していましたが何かが欠けていると思っていました。それがジミーという生き別れになった弟を通して、欠けていたのはアイデンティティー、自分のオリジン、ルーツだったと気付くわけです。彼は弟が直面している厳しい現実を見て、ひょっとしたらそれが自分自身の現実であったかもしれないという考えに取りつかれます。音楽的な才能も、生まれつきのものではなくて、育ったのが裕福な環境だったから音楽的に優れた遺伝子が全開で活用されたけれども、そうではない環境で育っていたらそれが花開くこともなかったかもしれないと。それはつらい発見ですがティボにとってはとても重要なことで、それを知ったことによって、欠けていたパズルを取り戻して彼の心は豊かになった。完全にアイデンティティーを取り戻して一人の人間になった。そうした一人の人物に起きた奇跡を描いたつもりです。
私自身もフランス人全体もイギリスの炭鉱町を舞台にした社会派コメディーがとても好きです。そこで生きている人たちの境遇はとても過酷で暗いものがありますが、登場するキャラクターは常に夢を抱いていて、厳しい状況に甘んじずに何かをやろうとする。そうした社会派コメディーはイギリス映画の伝統としてありますよね。だから、私の映画をケン・ローチみたいだねと言ってくれる人がいますが、それはすごい褒め言葉だと思っていて、とてもインスパイアされている監督です。今回、北フランスの炭鉱町を舞台に選んだのも、イギリスの社会派コメディーの系譜を踏襲したような舞台背景で、レンガ造りの建物など、イギリスの炭鉱町との共通項があったからかもしれません。とても好きなジャンルなので共通性を思い起こしてもらえてすごくうれしいです。日本にも是枝裕和監督がいますよね。彼の映画もちょっとドキュメンタリーな部分を含んだ社会派のドラマだと思います。
この映画はフランスで大ヒットしましたが、見ていただいた人たちに偏りがないんです。属している社会層も違えば、政治的なイデオロギーも違う人たちにこの映画を気に入ってもらえたのは、やっぱり音楽や家族のドラマや兄弟の物語が心に残るからだと思います。というのも、誰にとっても、自分や身近な人たちと重ね合わせるところがあったからだと思います。フランス以外でも大ヒットとなりましたが、日本でも映画館を出た時にはすごく幸せな気分になって、あそこは感動したとか、楽しんだと話し合ってもらえたらうれしいです。
(取材・文/田中雄二)

(C)Thibault Grabherr
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