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【インタビュー】『インクレディブル・ファミリー』ブラッド・バード監督「仕事と家庭の両立は、綱渡りをしているような感じです」

 ディズニー/ピクサーのアニメーション『インクレディブル・ファミリー』が8月1日から公開される。本作は、スーパーパワーを持つヒーロー家族の平凡な日常と、悪との戦いを、ユーモアとアクション、スリル満載で描いた壮大なアドベンチャー。前作『Mr.インクレディブル』(04)に続いて本作を監督したブラッド・バードが、本作のテーマや、実写とアニメーションの違いなどについて語ってくれた。

ブラッド・バード監督

-今回は「ヒーロー家族にも悩みや日常生活がある」というのがキャッチコピーになっています。ヒーロー物なのに普通の家族として描くところがとてもユニークだと思いましたが、なぜこうした形で描こうと思ったのでしょうか。

 スーパーヒーロー物というと、どうしてもヒーローとして活動している側面に光が当てられがちで、その人たちの本来の姿や、生活が描かれることはほとんどありません。なので、それを描いたら面白いと思いました。スーパーヒーローというレンズを通して、誰もが知っている家族というコンセプトを掘り下げる。また逆に、家族を通してスーパーヒーローを描く。そのどちらもが面白いと思いました。

-ヘレンを通して、女性の社会進出や、子育てと仕事の両立というテーマも描かれていますね。

 仕事と家庭の両立というのは、男性、女性に限らず、バランスを取るのがとても難しいと思います。僕自身もまだ答えが出ていません。本当に綱渡りをしているような感じです。たとえば、1カ所はとてもバランスが取れているように見えても、常にシフトをしていかないと前には進めません。まるで手探りのようだと誰もが感じていると思います。また、キャラクターの役割を入れ替えたら面白いかもしれないということは、前作が終わった13年前に思いついたことなので、特に今の世相を意識した訳ではありません。

-本作には、監督自身の家族に関する体験も反映されていると聞きました。公開中の細田守監督の『未来のミライ』も、監督自身の体験を反映し、家族を描いたファンタジーアニメーションです。同時期に、日米で同じようなテーマを描いたアニメ映画が公開されることについて、何か感じることはありますか。

 家族のあり方や子育てについて、みんながオープンにして、いろいろと模索しながら実践していく、そうしたシフトや動きが少しずつ起きてきているのかなと思いますし、それはとてもいいことだと思います。残念ながら、その映画のことは知りませんでしたが、これから休暇が取れるのでぜひ見てみようと思います。

-『アベンジャーズ』など、他のヒーロー物も描いていますが、大衆は強大なパワーを持つものに恐怖を抱く反面、ヒーローを欲するという二律背反する思いを持っています。その点は、どう考えますか。

 恐怖心は自分が理解できないものに対して抱くものだと思います。人は自分の考えに対して異質なものに恐怖心を抱きます。また、恐怖心は攻撃性に形を変えたりもします。それらは物語を作る上でとても重要なテーマだと思います。

-では話を変えて、久しぶりに声優としてエドナを演じた感想は?

 監督はとても大変な仕事なので、エドナを演じる時間はとても楽しいのです。監督業に比べれば楽ですからね(笑)。ただ、街で会う人たちからは、僕がこの映画の監督・脚本を手掛けたことよりも、「エドナの声をやっているの!」と感心されることの方が多いので、ちょっと不満です(笑)。

-監督は、アニメーションだけでなく『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(11)や『トゥモローランド』(15)といった実写映画の監督もしていますが、演出する上で大きな違いはありますか。

 実写映画は自然発生的な要素がとても強いです。天候もそうですが、撮影現場で物理的にどうしてもうまくいかないことが起きてしまいます。例えば、これを撮ろうと計画していても、そこにカメラが置けないこともあります。『ミッション:インポッシブル~』のような大作の場合は、撮影時の一瞬一瞬に膨大なお金が使われているので、スタッフを待たせている間にも大変な費用が掛かってしまいます。ですから、瞬時にいろいろなことを決めなければなりません。製作費は大作になれば実写もアニメーションもそれほど変わりませんが、アニメーションの場合は屋内で作業するので、お金の使い方や環境をコントロールできるのが利点です。

-では、実写とアニメーションとでは、どちらがお好きですか。

 もちろん、どちらも大好きですよ(笑)。実写の場合は、「その瞬間に何かが起きる」という空気を察して、アドリブで何かをしてもらうことができる面白さがあります。『ミッション:インポッシブル~』では、カーター(ポーラ・パットン)が男を誘惑するシーンがあったのですが、その瞬間、はっと感じるものがあって、ポーラに「相手の横っ面をたたいて」とお願いしました。相手役もちゃんと受けてくれましたが、大変驚いた様子でした。そうしたサプライズが垣間見える瞬間というのは、アニメーションでは味わえないものです。
 逆にアニメーションは、例えば、眉を動かしたり、鼻の穴を指でちょっと閉めるというように、計画的に動きを変えることで変化を見せることができます。ただ、実写もアニメーションも最終的に目指しているのは、描いたキャラクターを、観客に共感してもらうことです。そこに至るまでの方法が違うだけなのです。

(取材・文・写真/田中雄二)

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