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家族や結婚について考えてみる『カモン カモン』『マリー・ミー』【映画コラム】

『カモン カモン』(4月22日公開)

(C)2021 Be Funny When You Can LLC. All Rights Reserved.

 ニューヨークで一人暮らしをするラジオジャーナリストのジョニー(ホアキン・フェニックス)は、妹のヴィヴ(ギャビー・ホフマン)から頼まれて9歳のおいジェシー(ウディ・ノーマン)の面倒を数日間見ることになる。

 2人が送る日々を、デトロイト、ロサンゼルス、ニューヨーク、ニューオリンズと舞台を移しながら、印象的なモノクロームの映像で描く。

 『ジョーカー』(19)での怪演が記憶に新しいフェニックスが、一転して、子どもに振り回され、悩みながらも愛情を注ぐ伯父役を好演。子役のノーマンの達者な演技にも驚かされた。

 製作は、『ムーンライト』(16)『レディ・バード』(17)『ミッドサマー』(19)など、ユニークかつ一癖ある映画を提供するA24。

 もちろん、この映画の最大の見どころは、ジョニーとジェシーの互いの変化の様子だが、監督・脚本のマイク・ミルズが「自分が作る映画は、どれも母へのラブレターになる」と語るように、この映画の裏の主役は、ホフマン演じるジェシーの母ヴィヴだ。

 彼女は精神を病んだ夫(スクート・マクネイリー)の面倒を見ながら、息子の世話をしてくれている兄に、電話でさまざまな指示を出し、悩みに応える。つまり、実はこの映画全体を掌握しているのは彼女なのである。

 また、ジョニーが仕事として各地の子どもたちにインタビューをする様子が挿入されるが、この部分は脚本なしのドキュメンタリ―だという。そこで子どもたちが語る大人顔負けのコメントに驚かされたり、感心させられたりもした。彼らとジェシーがオーバーラップしてくるところが、この映画の真骨頂だ。

 さて、自分も、この映画のジョニーと同じ年頃の独身時代に、一時期おいの面倒を見たことがある。それ故、ジェシーに振り回されるジョニーを見ながら、身につまされたり、懐かしく感じるところがあった。

 例えば、『男はつらいよ』の寅さんと満男もそうだが、伯父とおいの間には、親子とは違う、時には兄弟のような、友人のような、不思議な関係性がある。あえてそこに着目したことで、この映画はユニークなものになったともいえるだろう。

『マリー・ミー』(4月22日公開)

(C)2021 Universal Pictures

 有名歌手のキャット(ジェニファー・ロペス)は、年下の売れっ子歌手バスティアン(マルーマ)との公開結婚式の直前、彼の浮気が発覚。失意の中、彼女は客席にいた見ず知らずの数学教師チャーリー(オーウェン・ウィルソン)を指名し、突然プロポーズをする。

 2人は互いを知るところから結婚生活を始め、次第に打ち解けていくが、キャットとバスティアンのデュエット曲「マリー・ミー」がグラミー賞にノミネートされて…。

 ロペスが製作も兼任した、“逆シンデレラ”とも呼ぶべき、前代未聞のギャップ婚を描いたロマンチックラブストーリー。最近、暗くて難解な映画が目立つせいか、ラブコメの王道を行くような、先が読める予定調和のストーリー展開がかえって心地よく感じられた。

 主役のロペスとウィルソン(見た目がちょっと若い頃のロバート・レッドフォードに似てきたところも)に加えて、キャットの取り巻きのスタッフやチャーリーの同僚といった脇役たちが活躍するのも楽しい。実は、こうしたラブコメの成否の鍵は脇役たちの描き方にあるという見方もできる。

 また、エンディングに映される実際のさまざまな夫婦の姿を見ながら、結婚とは…と考えさせられる一面もあった。

(田中雄二)