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一方、『アウトブレイク』(訳せば悪疫)は、アフリカから持ち込まれた致死性の高い未知のウイルス(エボラ出血熱に似た、モターバという架空のもの)による「バイオハザード(生物災害)」に立ち向かう人々の姿を描いている。監督は『Uボート』(81)のウォルフガング・ペーターゼン、主演はダスティン・ホフマン。
本作の特徴は、公開時に流行していたエボラ出血熱やエイズよりも、さらに進んだウイルスの存在を描いた新しさと怖さ、限られた時間内に、ただ一体の抗体を保持する宿主を探し当てるまでの謎解きや、それを捕獲するまでのサスペンスにあった。
そして、本作の公開時は、エボラ出血熱やエイズにすらこれといったワクチンがなかったこともあり、映画内での、いささか安易過ぎるとも思える新型ワクチンの発見が、逆に見る者に安ど感を与えるという効果を生んでいた。
さらに、パニックシーンでは、95年の阪神淡路大震災での悪夢を想起させられる場面も多かった。そうした点では、公開当時は、時代に敏感なアメリカ映画の懐の深さやしたたかさを思い知らされた感があった。
それから25年後の今、本作が描いたアフリカの小さな村から全米へと広がるウイルス波及のスピードの早さは、今の新型コロナウイルスの感染拡大におけるアメリカの姿とよく似ている。本作が描いた未知のウイルスがもたらす恐怖は、現実のものとなったのだ。
どちらも、ウイルスのまん延の怖さを描いた映画ではあるが、今見直すことで、改めて見えてくることや、考えさせられることも多々あると思う。(田中雄二)