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八千草薫、有馬稲子、浅丘ルリ子、加賀まりこ…。倉本聰脚本の下、往年の映画スターが一堂に会した昼の帯ドラマ「やすらぎの郷」(テレビ朝日系 月~金 午後12時半)が好調だ。
かつてテレビ界で活躍した人々が暮らす老人ホーム“やすらぎの郷”を舞台に、引退した脚本家・菊村栄(石坂浩二)の周囲で繰り広げられるさまざまな人間模様が描かれる。豪華俳優陣の競演に加えて、随所にかつてのテレビドラマや映画に対するオマージュが盛り込まれているのも、このドラマの見どころ。
それぞれの俳優の持ち味を生かした倉本による当て書きの効果もあり、70歳オーバーという年齢を感じさせないかつてのスターたちのはつらつとした演技は、往時の輝きがいまだ失われていないことを教えてくれる。中でも、“お嬢”こと元女優の白川冴子を演じる浅丘は、「おんな城主 直虎」での威厳あふれるたたずまいとは対照的な伸び伸びとした演技で、その存在を強く印象付ける。
俳優がそれぞれ芸能事務所に所属し、作品毎にテレビドラマや映画への出演を決める現在とは異なり、1960年代までは、大手映画会社と専属契約を結んだ俳優たちが次々と各社の映画に出演していた。専属契約は俳優たちを拘束する一面もあったが、経験を積むという意味では、演技に専念できる恵まれた環境で育ったスターたちの輝きは、簡単に消えるものではないようだ。
年月の経過と共にかつてのスターが次々と鬼籍に入り、多くのファンを悲しませるニュースが続く昨今。まだまだ元気な彼女たちの活躍は、高齢化社会を生きる視聴者を励ますと同時に、そんなファンへの贈り物にもなっている。
だが、彼女たちの活躍がもたらすものは、そればかりではないだろう。ベテラン俳優との共演は、若い俳優にとっても貴重な財産となるはずだ。「やすらぎの郷」の主要キャストの中で最年少は、バーテンダーの財前ゆかりを演じる松岡茉優。22歳の彼女にとって、円熟した演技に間近で触れることは、これから女優として成長していく上での糧となるに違いない。松岡自身もいくつかのインタビューで、大先輩たちとの共演について意欲的に語っている。
幸い、「やすらぎの郷」の好評を受けて、他局もシルバー世代をターゲットにした番組制作に追随しそうな気配。本作の出演者以外にも、宍戸錠、小林旭、宝田明、高橋英樹、岩下志麻、松原智恵子、富司純子など、日本映画華やかなりし時代を知る俳優たちはまだまだいる。これを機に活躍の場が与えられれば、若い俳優が、彼らの演技に接する機会も増えるだろう。それはやがて、日本のテレビドラマや映画の未来につながっていくはずだ。そんな作品が一つでも多く生まれることを期待しつつ、「やすらぎの郷」の行方を見守っていきたい。(井上健一)