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若き日に雌雄を決することなく引退した2人の元ボクサーの30年後の再対戦を描いたスポーツコメディー『リベンジ・マッチ』が4日から公開された。
元ボクサーを演じたのは、何と御年67歳のシルベスター・スタローンと70歳のロバート・デ・ニーロという二大ベテランスター。
今回2人はヘンリー・“レーザー”・シャープとビリー・“ザ・キッド”・マクドネンというキャラクターに扮(ふん)しているが、見る者はどうしても『ロッキー』(76)のロッキー・バルボア対『レイジング・ブル』(80)のジェイク・ラモッタという“夢の対決”を思い描いてしまう。もちろんそこが本作の最大のセールスポイントでもあるのだが…。
『ロッキー』は、当時売れない俳優だったスタローンがモハメド・アリ対チャック・ウェプナーの世界戦に触発されて3日間で脚本を書き上げ、自ら映画会社に売り込んで主演し、アメリカンドリームをかなえた名作。『ロッキー・ザ・ファイナル』(06)まで6本のシリーズ作品が作られた。
一方『レイジング・ブル』はデ・ニーロが実在の世界ミドル級王者のラモッタを演じ、迫真の試合シーンはもちろん、体重を増減させるなど“デ・ニーロ・アプローチ”と呼ばれる独特の役作りに挑み、アカデミー賞の主演男優賞を受賞した。
と、2人にとってはどちらも栄光の映画だが、それはすでに30年以上も前の話。本作は言わば遅過ぎた夢の対決を描いているのだが、もちろん彼らはそれを百も承知で演じているし、なにより本作の根幹を成すのは喜劇なのだ。
だからヘンリーがロッキーのようにアナクロなトレーニングを積み、精肉工場で牛肉をサンドバッグ代わりにしようとしたり、生卵を一気飲みする場面がある。またビリーがラモッタのように自分の店で芸人もどきとして客とやりあう姿が映るなど、2人は楽しそうにセルフパロディーを演じている。 アラン・アーキンが好演するヘンリーの老トレーナーの“稲妻”も「ロッキー」シリーズのトレーナー、ミッキーをほうふつさせる。
ところが本作が見る者の心を打つ本当の理由は、彼らが冗談のようなこの映画を笑いの部分も含めて全て本気で演じているという点だ。デ・ニーロは今回も10キロ前後の減量をしたという。そしてクライマックスの試合の場面も初めは痛々しさを感じるのは否めないが、やがて2人の“ガチンコ”ファイトがそれを忘れさせる。
監督のピーター・シーガルは「ボクシングは人生そのものだ。打ちのめされて倒れても、また起き上がって戦い続けられるか、そんな問いを象徴しているスポーツなんだ」と語っているが、まさに2人はその言葉を見事に体現してみせたのだ。(田中雄二)