【映画コラム】死ぬことではなく生きることについて描いた『ダラス・バイヤーズクラブ』

2014年2月22日 / 17:10

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 HIVウイルスに感染し、余命30日と宣告された電気技師が命を懸けて挑んだこととは…。1985年の米テキサスを舞台に、未承認エイズ治療薬の密売組織を立ち上げ、エイズ患者の希望の星となった男の実話を映画化した『ダラス・バイヤーズクラブ』が22日から公開された。

 本作の主人公ロン・ウッドルーフ(マシュー・マコノヒー)は、ロデオと酒と女に明け暮れる破天荒な毎日を送っていたが、いざ病名を告げられると「ゲイでもない俺がなぜ…」という疑問を抱く。

 なぜなら、80年代当時、人々はエイズという病に対して甚だ無知であり、二枚目俳優のロック・ハドソンが実はゲイでエイズに侵されたという衝撃の事実がゲイ=エイズという偏見に拍車を掛けていたからだ。

 だがロンのユニークな点は、悔し紛れにエイズについて徹底的に調べ上げ、やがて治療薬の権威になっていくところ。彼は決して慈善家でも善人でもない。ただ「死んでたまるか!」という強い思いに従って行動したに過ぎないのだが、図らずもエイズ患者にとっては救世主的な存在となっていく。いわば『シンドラーのリスト』(93)の主人公オスカー・シンドラーにも似た“偶然が生んだヒーロー”なのだ。

 ジャン=マルク・ヴァレ監督は、あえてロンを観客が感情移入しにくい男として描きながら、彼がトランスジェンダーのレイヨン(ジャレッド・レド)や医師(ジェニファー・ガーナー)と接するうちに変化していくさまをドキュメンタリータッチで描いていく。決して感情過多に陥らない演出に好感が持てる。

 ところで、ロンを演じたマコノヒーは役のために21キロも減量したという。彼はデビュー当時はポール・ニューマンの再来と言われ、『ピープル』誌の「最もセクシーな男性」にも選ばれた期待のイケメン俳優だったが、いかんせん演技力が伴わずに低迷。その後、インディーズ系の映画にも出演しながら徐々に演技の腕を磨いていった。

 最近は、秘密を持った主人公の兄を演じた『ペーパーボーイ 真夏の引力』(12)、主人公の上司役を演じた『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(13)、そして本作と進境著しいものがある。本作ではすでにゴールデン・グローブ賞で主演男優賞(ドラマ部門)を受賞し、アカデミー賞の主演男優賞も有力視されている。

 マコノヒーは「この映画は死ぬことではなく生きることについて描いている」と語っているが、事実ロンは死の宣告から7年間積極的に生き続けた。「自分が欲しいものを理解すること。それが何かを手に入れるための鍵になる」という彼の言葉が印象に残る。(田中雄二)


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