【映画コラム】激動の時代を背景に“家族の物語”を描いた『大統領の執事の涙』

2014年2月15日 / 19:51

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 キューバ危機、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺、公民権運動の広がり、マーティン・ルーサー・キング牧師暗殺、ベトナム戦争、ウォーターゲート事件…アメリカの激動の時代に7人の大統領に仕えた黒人執事の半生を、実話を基に映画化した『大統領の執事の涙』が15日から公開された。

 本作は、奴隷の子として生まれ、自らの才覚でホワイトハウスの執事にまで上り詰めた主人公セシル(フォレスト・ウィテカー)のサクセスストーリーであると同時に、彼と彼の家族が歴史の渦の中で苦悩するさまを描いた“家族の物語”でもある。

 「父さんは世の中を良くするために白人に仕えている」と息子たちに語るセシル。だが長男は父の仕事に反発して反政府運動に身を投じ、次男はベトナム戦争に志願する。本作は父と子の対立を通して急速な時代の変化を映していく。

 また、本作の注目点は、いまだに白人の監督が黒人を描くのが当たり前のハリウッドで、黒人を中心としたスタッフとキャストが黒人史を描き、立場を主張したところにある。

 監督のリー・ダニエルズは『プレシャス』(09)『ペーパーボーイ 真夏の引力』(12)などで注目された黒人監督。ウィテカーのほかにもオプラ・ウィンフリー、キューバ・グッディング・Jr、テレンス・ハワード、デビッド・オイェロウォら黒人俳優が好演を見せ、歌手のレニー・クラヴィッツとマライア・キャリーも俳優として登場する。

 さらに野球選手のジャッキー・ロビンソン、公民権運動活動家のマルコムX、ミュージシャンのルイ・アームストロング、俳優のシドニー・ポワチエら、アメリカの黒人史を語る上で欠かせない人物の名前が物語の端々で語られる。そしてラストを飾るのは黒人初の大統領となったバラク・オバマの就任式だ。

 今後も、南部の綿花農園で12年間も奴隷生活を強いられた黒人男性の実話を映画化したスティーブ・マックイーン監督の『それでも夜は明ける』(3月7日公開)と黒人青年が鉄道警官に銃で撃たれて死亡した事件を映画化したウィテカー製作、ライアン・クーグラー監督の『フルートベール駅で』(3月21日公開)という黒人監督による注目作が公開される。これはとてもいい流れだと言える。

 さて、本作のもう一つの注目点は、ドワイト・アイゼンハワー(ロビン・ウィリアムズ)、ケネディ(ジェームズ・マースデン)と妻のジャクリーン(ミンカ・ケリー)、リンドン・B・ジョンソン(リーブ・シュレイバー)、リチャード・ニクソン(ジョン・キューザック)、ロナルド・レーガン(アラン・リックマン)と妻のナンシー(ジェーン・フォンダ)と、芸達者な俳優たちが歴代大統領をそっくりに演じていること。ケネディ暗殺から50年余。娘のキャロライン・ケネディ駐日大使の幼女時代も描かれる。(田中雄二)

『大統領の執事の涙』
新宿ピカデリー他全国大ヒット公開中
配給:アスミック・エース


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