エンターテインメント・ウェブマガジン
その直後、栄一のもとに「市郎右衛門危篤」の報せが届く。血洗島の実家に駆け付け、枕もとで「俺は、まだ何も孝行できてねえ」と嘆く栄一の手を握り、市郎右衛門は次のように語る。
「俺はもう心残りはねえ。俺はこの渋沢栄一の父だ。こんな、田舎で生まれ育った己の息子が、天子様の寵臣になるとは、誰が思うものか。おまえを誇りに思ってる」
これが、2人が心を通い合わせた最後のひと時となった。父の教えを忠実に実践する栄一と、父との永遠の別れ。この二つをクロスオーバーさせることで、市郎右衛門の教えが、確かに栄一に受け継がれている様子を印象付ける秀逸な構成だった。
「渋沢栄一の父」というサブタイトルも、市郎右衛門本人を指すのと同時に、その教えこそが、人間・渋沢栄一を作り上げた「父」であったというダブルミーニングにも思えてくる。
次回は「栄一、最後の変身」というサブタイトルで、改正掛がなくなり、父に永遠の別れを告げた栄一に、また新たな展開が待っていそうだ。父の教えを受け継いだ栄一がどこへ向かっていくのか。その行く末を、これからも見守っていきたい。(井上健一)