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【芸能コラム】もはやコント…“駄じゃれ”と“お約束”でがんじがらめの異色刑事ドラマ「警視庁・捜査一課長2020」

 新型コロナウィルス感染拡大の影響によって放送延期が相次ぐ春ドラマ。そんな中、好発進したのが内藤剛志主演の「警視庁・捜査一課長2020」(テレビ朝日 木曜午後8時~)だ。

「警視庁・捜査一課長2020」(C)テレビ朝日

 タイトルや、内藤、斉藤由貴、本田博太郎、金田明夫といった渋めの出演者から「硬派な刑事ドラマ」と思っている人も多いようだが、その実態は、“駄じゃれ”と“お約束”でがんじがらめになった、もはや「コント」と言っても過言ではない異色作だった。

 本作は、ノンキャリアのヒラ刑事から警視庁の花形部署・捜査一課の課長にまで成り上がった大岩純一(内藤)と、彼が率いる個性的な精鋭刑事が、東京都内で起こる凶悪事件を解決するミステリードラマ。

 2012年に単発ドラマからスタートし、16年に連続ドラマ化されると、翌年の「season2」では平均視聴率12.5パーセントを記録。18年の「season3」も平均12.8パーセントと安定した人気を獲得した。

 そして新シリーズでは、初回平均視聴率が13.3パーセント、2話が13.8パーセント、3話が13.9パーセントと絶好調。水谷豊主演の人気ドラマ「相棒season18」(同局・19年10月~20年3月放送)の平均視聴率14.8パーセントと比較しても引けを取らない。

 同じ春ドラマでは、フジテレビ「月9」枠の織田裕二主演の「SUITS/スーツ2」(初回11.1パーセント、2話8.8パーセント)、日本テレビの中村倫也主演の「美食探偵 明智五郎」(初回10.0パーセント、2・3話8.6パーセント)の視聴率を大きく上回る結果を出している(数字はビデオリサーチ調べ。関東地区)。

 では、その人気の理由とは? それは、ほかのドラマでは類を見ないワンパターンのストーリー展開、お決まりのせりふ、駄じゃれで付けたキャラクター名、棒読みの芝居など、ドラマ界では禁じ手のような要素を、多分に、しかも堂々と含ませているところが特異な魅力となっているようだ。

 ちなみに「相棒」は、脚本家や監督を何人も擁しており、1シリーズの中でも、手掛けるスタッフによってシリアスになったり、コミカルになったり、異なる雰囲気やストーリー展開を楽しむことができる。「捜査一課長」も同じ体制なのだが、テイストは見事なまでに統一されている。

 物語は、大岩が事件を知らせる電話を受けて「なに?」と驚くところから始まる。その後、事件現場に臨場し、捜査会議で捜査員に訓示し、「必ずホシ(犯人)を挙げる!」という決めぜりふで鼓舞する。

 運転担当刑事・奥野親道(塙宣之)のあだ名「ブランク」を「スランプ」「トランク」などと毎回言い間違える警視庁刑事部長・笹川健志(本田)とのシュールなやりとり、妻・小春(床嶋佳子)と愛猫・ビビとのたわいのない日常シーンが差し込まれることもお約束だ。

 女性刑事たちの名前がスイーツっぽいため、大岩がスイーツのあだ名をつけることもお決まり。初回では三吉彩花演じる新人刑事・妹尾萩(いもお・はぎ)が、大岩と会って早々に「おはぎ」と呼ばれる羽目に。

 ほかにも、「season2」に登場した谷中萌奈佳(やなか・もなか/安達祐実)は「最中」、スペシャル版では警部補・運野和菓子(うんの・わかこ/壇蜜)が「和菓子」、警部補・馬場呂亜(ばば・ろあ/田中美佐子)が「ババロア」、新人刑事・小倉安子(おぐら・やすこ/山本舞香)が「あんこ」と命名されている。

 さらに、谷保健作(ヤホー検索/土屋伸之・ナイツ)、今田美蓮(いまだ未練/松下由樹)、澤矢要(爽やかな目/窪塚俊介)、九条菊子(苦情聞く子/杉田かおる)など、ぶっ飛んだネーミングセンスによる登場人物のオンパレードで、SNS上では「駄じゃれかよ!!!!」「名前が毎回ふざけてていい」と大いに沸いている。

 このように完全にパターン化することで、視聴者にとっては駄じゃれもお約束もスタンダードとなり、あって当たり前、ないと物足りなくなってしまうのだ。その証拠に、ファンの間では「今日も面白かったー!」「刑事ドラマなのにギャグ要素ありでワンパターンなのに飽きない」「これは刑事ドラマなのか?刑事コントなのか?(笑)」「捜査一課長は長いコントだと思っている…」と、笑いとともに徹底した姿勢を認める声が上がっている。

 “コント説”が出回る要因の一つに、出演者の芝居もある。実力派のベテラン役者がそろっているにもかかわらず、駄じゃれやお約束でガッチガチの脚本によって身動きが取れないのか、全員がアンナチュラル。

 取ってつけたように、昨今の日本のグローバル化やジェンダーレスについて語り合う場面では、言わされている感が否めない。お笑いコンビ・ナイツの塙にいたっては、「芸人は演技が上手」という定説を覆し、「流れるような棒読み」「表情筋が殉職している」と酷評されている。だが、それすらも今や見どころの一つとなっている。

 「エイプリルフールにうそをついたら殺された」「“3割引き”のシールが貼られたご遺体」「餃子の皮を握りしめるご遺体」という、あり得ない事件設定もコントレベル。あまりの振り切りぶりに「絶対このドラマふざけているでしょ?」「真面目なドラマだと思っていたがツッコミどころ満載で困惑」「フィクションならこれくらい振り切ってくれると力抜いて見られてありがたい…」と刑事ドラマとは思えない感想が噴出している。

 だが、制作サイドは極めて真面目。内藤は同シリーズを「ライフワーク」に位置付け、10年間は続けたいという意向を示している。また、視聴者に「犯人捜し」と「事件に関わる人の人間模様」を楽しんでもらい、「チームワークで何かを成し遂げることの素晴らしさ」を届けることを心掛けているそうで、そこに「笑い」の文字は一切ない。

 その一方で、内藤は「このドラマが皆さんの活力につながればうれしいですね」とも話している。コロナ禍にある今、「テレビで内藤さんを見ることだけが生きがいです」「これ面白いわね、昔のシリーズから見ておいたらよかったな」「本当みんな捜査一課長見てくれよ。最高に笑えるからさ」と、内藤の思いや意思とは違うのかもしれないが、「活力=笑い」として人々の心に届いている。

 再放送も含めてさまざまなドラマが放送されているが、そのどれとも一線を画す「警視庁・捜査一課長2020」。日がな家にこもる日々…。暇つぶしに見るもよし、刑事ドラマとして見るもよし、壮大なコントとして見るもよし。不思議な魅力にハマってみてはいかがだろうか。(錦玲那)