エンターテインメント・ウェブマガジン
2016年に『君の名は。』で歴史的大ヒットを記録した新海誠監督の最新作『天気の子』が公開された。
本作は、天候の調和が狂っていく時代の東京を舞台に、離島から上京した家出少年・帆高と不思議な力を持つ少女・陽菜が出会い、運命に翻弄されながらも自らの生き方を「選択」する物語。
まず、過去の新海監督作を思い出しながら見てみると、『言の葉の庭』(13)でも描かれた緻密な雨の描写や、『君の名は。』で作品を一層美しく見せる相乗効果をもたらしたRADWIMPSの曲とのコラボレーションが、本作でも輝いていると筆者は感じた。
それに加えて、挑戦的とも言える都会の猥雑な描写や、天気を操る少女などの舞台装置も面白く、新海監督のファンでなくとも楽しく見られる作品に仕上がっているのではないだろうか。ただ、設定の掘り下げ方が駆け足気味だったことや、主人公たちの「選択」については、賛否が分かれるところがあるかもしれないと思った。
そして、本作を見て最も強く頭に浮かんだのは、これは新海監督による新たな「セカイ系」の物語だということだ。「セカイ系」とは何かというと、大きくはアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」(95~97)の強い影響を感じられる作品群のことで、思想家の東浩紀の著作『ゲーム的リアリズムの誕生 動物化するポストモダン2』(07)によれば、「主人公と恋愛相手(きみとぼく)の小さく感情的な人間関係を、社会や国家のような中間項を挟むことなく、『世界の危機』『この世の終わり』などといった大きな存在論的な問題に直結させる」作品群のことを指す。
代表的な作品としては、秋山瑞人の小説『イリヤの空、UFOの夏』(01~03)、高橋しんの漫画『最終兵器彼女』(01~02)、そして新海監督の短編アニメ映画『ほしのこえ』(02)などが挙げられる。アニメファンの間では、よく知られているジャンルの一つであり、新海監督はこの文脈の中で語られることが多いクリエーターの一人でもあった。
セカイ系作品では多くの場合、物語の終盤で、世界の平和とヒロインのどちらを選ぶかの「選択」を迫られるときがくる。そういう意味で、本作はそれに連なるものだと言えるし、自分ならどう「選択」しただろうかと考えてみるのも面白い。
セカイ系は、おもに2000年代に隆盛を極めたジャンルであり、2010年代も終わる今になって、これほど濃密な「セカイ系」に再び相まみえるとは…と驚いたファンも多いはずだ。筆者は、本作の源流の一つとも言えそうな新海監督の『雲のむこう、約束の場所』(04)も含めて、改めてセカイ系の諸作を見返してみたくなった。