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第69回紅白歌合戦の企画コーナーに登場した「刀剣男士」による迫力あるパフォーマンスが、話題を呼んでいる。彼らのパフォーマンスで初めて「2.5次元ミュージカル」という存在を知った人もいるのではないだろうか。また、言葉は聞いたことがあってもそれが何を意味するのか、知らない人も多いことだろう。今、新たな「ジャパニーズカルチャー」の一つとして注目され始めている「2.5次元ミュージカル」とは一体何なのかを紹介しよう。
そもそも「2.5次元ミュージカル」とは、2次元の漫画やアニメ、ゲームを原作としたストレートプレーも含んだ舞台コンテンツの総称である。そして、現在の「2.5次元ミュージカル」の原型とも言える作品が、2003年に初演されて以降、15年間にわたって上演され続けている、ミュージカル『テニスの王子様』だ。
これは「週刊少年ジャンプ」で連載されていた漫画「テニスの王子様」を舞台化した作品。テニスの天才少年・越前リョーマが、テニスの名門校・青春学園中等部(青学・せいがく)に入学し、全国制覇を目指して地区予選、都大会へと出場し、強敵に挑んでいく、というストーリーだ。
原作は試合の描写が多く、舞台もテニスの試合を中心に構成されている。試合のシーンはピンスポット照明と打球音、そして演者たちのアクションで再現。さらに歌とダンスで、キャラクターたちの心情を描き出し、スピーディーで飽きさせない演出が多くの観客を魅了した。以降、さまざまな作品が舞台化・ミュージカル化されるようになり、17年には年間171作品、223万人を動員(ぴあ総研調べ)する市場に成長している。
2.5次元ミュージカルの魅力は、何といっても「漫画やアニメ、ゲームのキャラクターが、2次元から飛び出してきたかのような感覚を味わえること」にある。これまで、紙の中や、画面の中だけに存在していたキャラクターが、目の前で言葉を話し、時に歌う。リアルに生きていることを感じられるのだ。それに伴って、2次元だった原作の持つ世界観もステージ上に再現される。五感で大好きな漫画、アニメ、ゲームの世界が体感できる経験は、何物にも代えがたい。
また、エンターテインメント性の高さも魅力の一つ。日本2.5次元ミュージカル協会の代表理事を務め、演劇プロデューサーでもある松田誠氏は、本サイトで行ったインタビュー時に「2.5次元のライバルは歌舞伎や欧米のミュージカルというよりは、ディズニーランドなんです。若い人の多くはディズニーランドに行きますよね。それと同じ感覚で、劇場に来てくれるためにはどうしたらいいか、ということを考えている」と語っていたが、その言葉を体現するかのように、幅広いエンターテインメントを味わえるのが、2.5次元ミュージカルでもある。
舞台全体を使ってアクロバティックな殺陣を繰り広げる作品があれば、歌やダンスでステージを盛り上げ、観客が一体となってペンライトを振る作品もある。さらに、プロジェクションマッピングや特殊演出を用いて、最先端技術と役者たちの演技を融合させて作り上げる作品もある。その作風は多種多様ながら、初めて舞台を見に行く観客にも分かりやすく、かつ飽きさせない工夫が随所になされていると感じる。
こういったさまざまな魅力が積み重なって、これまで演劇に触れてこなかった人たちにも劇場に足を運ぶ機会を与え、2.5次元ミュージカルは一大市場に成長した。今や、毎日、いずれかの作品がどこかで上演されているほどだ。