【コラム 2016年注目の俳優たち】 第27回 新垣結衣 脚本家・野木亜紀子とのコンビが引き出す魅力 「逃げるは恥だが役に立つ」

2016年11月22日 / 16:31
「逃げるは恥だが役に立つ」 (C)TBS

「逃げるは恥だが役に立つ」 (C)TBS

 TBS系毎週火曜日午後10時放送の「逃げるは恥だが役に立つ」が人気沸騰中。派遣切りに遭って失業した森山みくりと35年間彼女なしの独身会社員・津崎平匡が、住み込みの家事手伝いという雇用関係を前提に契約結婚したことから巻き起こる騒動を描くラブコメディーだ。

 ユニークなストーリーに加え、さまざまなテレビ番組のパロディーを盛り込んだ演出や、平匡役の星野源が歌う主題歌「恋」に乗せて出演者が躍る「恋ダンス」など話題性も豊富で、大きな注目を集めている。

 このドラマは、主人公・森山みくりを演じる新垣結衣にとって、「空飛ぶ広報室」(13)、「掟上今日子の備忘録」(15)に続く脚本家・野木亜紀子とのコンビ作となる。今回は、4年で3作の連ドラを送り出してきた新垣&野木コンビの魅力について考えてみたい。

 野木がこれまで脚本を手掛けた作品を振り返ってみると、非日常的、もしくは一般にあまり知られていない世界を舞台にしたものが多いことに気付く。

 架空の近未来を舞台に、図書館を守る“図書隊”の活躍をミリタリー色濃厚に描いた『図書館戦争』(13)、マンガ雑誌の編集部を舞台にした「重版出来!」(16)…。小説や漫画の原作に描かれた世界観を的確に説明した上で、ドラマを組み立てる手腕に長けた印象がある。

 海野つなみの漫画を原作にした「逃げるは恥だが役に立つ」(以下、「逃げ恥」)についても、『月刊ドラマ』11月号(映人社刊)のインタビューで野木本人が、オファーの際に「理屈っぽいから合っている」と言われたと語っている。

 ただそういった作品の場合、どうしても状況を説明するせりふが多くなりがちだ。「逃げ恥」も、主人公2人が理屈っぽい性格ということもあり、互いの胸中を分析するような説明的なせりふやモノローグが多い。だが、新垣の流れるような心地良い語りは、その説明くささを和らげ、作品の面白さに転化している。

 一方、非日常的な作品が多い野木とのコンビは、新垣の女優としての幅を広げることにもつながっている。

 2人の初顔合わせとなった「空飛ぶ広報室」で演じたテレビディレクターの稲葉リカこそ、それまで新垣が得意としてきたひたむきな熱血タイプだが、続く「掟上今日子の備忘録」では一風変わった役に挑戦。どんな難事件も1日で解決するが、眠ると記憶がリセットされる“忘却探偵”という浮世離れした人物を好演し、新たな一面を披露した。

 そしてコンビ3作目となる「逃げ恥」のみくりは、過去2作で演じた人物の中間に位置するキャラクターと言えそうだ。稲葉リカよりは冷静で分析的だが、掟上今日子ほどクールではなく感情豊か。その絶妙なバランスが新垣のナチュラルな雰囲気とマッチして、みくりというキャラクターの魅力になっている。

 野木脚本の3作で演じた人物はいずれもタイプが異なり、作品ごとに新垣の違った表情を見ることができる。

 脚本家の名前で語られることが多いテレビドラマには、俳優と脚本家の名コンビが数多く存在する。新垣と野木のコンビも、いずれはそう呼ばれる時が来るのではないか…。そんな期待を込めつつ、今は「逃げ恥」の行方を見守っている。

(ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)


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