【アニメコラム】 「人生で大事なことは80年代テレビアニメから教わった」後編

2015年7月7日 / 15:28
「ドラゴンボール超」 (c)バードスタジオ/集英社・フジテレビ・東映アニメーション

「ドラゴンボール超」 (c)バードスタジオ/集英社・フジテレビ・東映アニメーション

 前回挙げた「あしたのジョー2」(80~81)は、人気漫画が原作だが、演出(チーフディレクター)を務めた出崎統は、彼の代名詞とも言えるハーモニー(絵画風の静止画)を駆使し、原作にはないエピソードを追加するなど、作家性の強い作品に仕上げた。この他、スポーツ物では、高校野球を舞台にした杉井ギサブロー総監督の「タッチ」(85~87)も印象深い。

 また、人の生きざまやスポーツといった身近な話題ばかりでなく、実写では難しいスケールの大きな物語を描くことができるのもアニメの特徴だ。

 「ダブリンで鼻つまみが、ジャンヌ・ダルクとはね」

 これは、「ガンダム」の富野由悠季総監督によるロボットアニメ「聖戦士ダンバイン」(83~84)に登場するせりふである。主人公のライバルが、周囲から“ジャンヌ・ダルク”と持ち上げられる自分のことを自嘲気味に語ったもので、“ダブリン”とは彼女の故郷アイルランドの首都を指す。

 この作品は、異世界バイストン・ウェルを舞台にしたファンタジー調の前半から一転、後半では人型兵器“オーラバトラー”がパリ、ロンドンなど各地に大挙出現して世界大戦の様相を呈してくる。日本人の海外旅行者数が現在の1/4程度だった当時、リアルな世界を舞台にした物語は、海外に目を向けるきっかけとなった。

 さらに、ロボットアニメの体裁を取りつつ、植民地の独立戦争の経緯を描き切ったのが、「太陽の牙ダグラム」(81~83)。地球側のかいらい政権樹立に抵抗する植民地デロイア星独立派のゲリラ部隊を中心に、高度な政治的駆け引きやミリタリー色濃厚な戦闘場面を交え、生々しい人間ドラマを繰り広げた。共同で原作と監督を務めた高橋良輔は本作について、ベトナム戦争の映像や『独立愚連隊』(59)、『ゴッドファーザー』(72)といった映画からの影響を認めている。

 権力への反抗といえば、フランス革命のいきさつを華麗な歴史絵巻として描いた「ベルサイユのばら」(79~80)も忘れてはいけない。当時は繰り返し再放送が行なわれており、今でもマリー・アントワネットの名前を聞くと、アニメのキャラクターが頭に浮かぶほどだ。

 「フランダースの犬」(75)を生んだ「世界名作劇場」も、名作文学を通して世界へ目を向けさせてくれたシリーズで、80年代を通して安定した人気を誇っていた。個人的に印象深いのは、フィンランドを舞台にした「牧場の少女カトリ」(84)、フランシス・ホジソン・バーネットの名作が原作の「小公女セーラ」(85)など。NHKも「ニルスのふしぎな旅」(80~81)、「名犬ジョリィ」(81~82)といった文学が原作の作品を送り出していた。

 あのころ、真摯(しんし)に作品と向き合った作り手たちの熱は、確実に視聴者に届いていた。特に人気を集めた“ロボットもの”では、商品を売りたいスポンサーの要求さえ満たせば内容は自由という条件の下、「伝説巨神イデオン」(80~81)、「戦国魔神ゴーショーグン」(81)、「銀河旋風ブライガー」(81~82)など、個性的な作品が続出。また、放送期間3カ月から半年が主流の現在とは異なり、多くの作品が半年から1年(時にはそれ以上)という長期間続いたことで、大河ドラマのような物語も生まれた。

 当時、子どもだった筆者は、その内容の全てを把握できたわけではないが、30年以上経過した今見ると、その濃密さにあらためて驚かされる。以上は、筆者個人の体験に基づくものだが、2015年の夏も「ドラゴンボール超(スーパー)」や「アクエリオンロゴス」などの新作が続々と生まれている。その中から、将来、あなたにとっての思い出の1本となる作品が見付かるに違いない。

 (ライター:井上健一):映画を中心に、雑誌やムック、WEBなどでインタビュー、解説記事などを執筆。『オールタイム・ベスト 映画遺産 アニメーション篇』(キネマ旬報社)などに参加。


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