【映画コラム】アカデミー賞に見る“実話映画”の流行について

2015年2月28日 / 19:14

『博士と彼女のセオリー』 (C)UNIVERSAL PICTURES

 23日(現地時間22日)に行われた「第87回アカデミー賞授賞式」では、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』が作品賞のほか、監督賞(アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ)、脚本賞、撮影賞を受賞した。

 だが興味深かったのは、今年も候補作の多くが実話を基にした映画だったこと。特に主演男優賞は『バードマン~』のマイケル・キートン以外は、実在の人物を演じた俳優が賞を競った。

 候補者は『博士と彼女のセオリー』(3月13日公開)で英国の理論物理学者スティーブン・ホーキング博士を演じたエディ・レッドメイン、『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』(3月13日公開)で英国の数学者アラン・チューリングを演じたベネディクト・カンバーバッチ、『フォックスキャッチャー』で米国の大富豪ジョン・デュポンを演じたスティーブ・カレル、『アメリカン・スナイパー』で米軍狙撃兵クリス・カイルを演じたブラッドリー・クーパー。

 中には特殊メークや肉体改造を施して役に挑んだ者もおり、甲乙付け難かったが、若くしてALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症し、ほぼ全身がまひしていくホーキング博士を演じ切ったレッドメインが受賞した。これらの人物の中では博士の実像が最もイメージしやすく、博士本人の姿とレッドメインの演技が比較できたことが受賞につながったとも思われる。

 今後も、アンドレ・ベンジャミンが伝説のギタリスト、ジミ・ヘンドリックスを演じた『JIMI:栄光への軌跡』(4月11日公開)、『42~世界を変えた男~』(13)で黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンを演じたチャドウィック・ボーズマンがソウルミュージック界のレジェンドを熱演した『ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男』(5月30日公開)、そしてデビッド・オイェロウォが公民権運動のリーダー、マーティン・ルーサー・キング牧師を演じ、アカデミー賞の作品賞候補となった『Selma』(6月公開予定)と“実話映画”の公開が続く。 

 実話の映画化が流行するとオリジナルストーリーの枯渇や安易な方法として批判を浴びることも多いが、逆に、よくこんな話を見つけて映画にしたものだと感心させられるケースも少なくない。要は発見した素材をいかに料理し、一本の映画としてどう仕上げるかが製作者たちの腕の見せどころなのである。(田中雄二)


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