エンターテインメント・ウェブマガジン
インド人として初めてメジャーリーグの球団と契約した2人の投手と彼らを発掘したスポーツエージェント(=代理人)の交流を、実話を基に描いた『ミリオンダラー・アーム』が公開中。プロ野球界の1年の締めくくりに当たるこの時期にはぴったりの映画だ。
前半は、大規模なロケを行ったインドのムンバイ、タージ・マハルなどを舞台に、エージェントのJB・バーンスタイン(ジョン・ハム )による選手発掘の経緯を、後半は、JBと2人の新人投手のロサンゼルスでの新生活と入団テストまでを、コミカルとシリアスを交えながら描いていく。この二段構えの構成が“事実は小説よりも奇なり”の面白さを引き出した。
そして、野球を媒介に、中年男JBの人生やり直しとチャンスをつかもうとする2人の若者の姿を並行して描きながら、利益至上主義だったJBが最後に「野球はビジネスが全てじゃない。だから楽しむんだ」と気付くまでを見せていく。
と、この手のスポーツ映画のパターンを踏襲しながら、見る者に好印象を抱かせるクレイグ・ギレスピー監督の演出はなかなかのもの。コーチ役のビル・パクストン、スカウト役のアラン・アーキン、世話係役のピトバッシュがそれぞれ好助演を見せる。
また、本作はその内容はもちろん、2人の新人投手を『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(12)のスラージ・シャルマと『スラムドッグ$ミリオネア』(08)のマドゥル・ミッタルというインド出身の新進俳優が演じている点にも注目してほしい。“インドに熱い視線を送るハリウッド”という最近の傾向の一端がうかがえるからだ。
その流れを証明するかのように、11月1日からは、南フランスの名門レストランと新興インド料理店の衝突を描いた『マダム・マロリーと魔法のスパイス』も公開される。
さて、話を野球に戻すと、12月20日から戦前のカナダに実在した日本人野球チームを描いた『バンクーバーの朝日』、来年の1月24日からは、日本統治時代の台湾から甲子園の全国中等学校優勝野球大会に出場した嘉義農林学校野球部を描いた『KANO~1931海の向こうの甲子園~』が公開される。映画館で見る野球もまた乙なものだ。(田中雄二)