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YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。

来たる2027年、全国に1万2千社あるといわれる天満宮は、極めて大きな節目を迎えます。
菅原道真公がお亡くなりになった延喜3(902)年から数えて、25年ごとに営まれる式年大祭。2027年は、道真公がお亡くなりになってから1125年という、誠に記念すべき年に当たるのでございます。
なぜ「25年」ごとなのか。実は「25」は、道真公の人生と切っても切れぬ不思議な御数字なのです。
お誕生が承和12(845)年6月25日、
大宰府への左遷が昌泰4(901)年1月25日、
そして、薨去が延喜3(902)年2月25日。
今でも毎月25日は「天神さんの縁日」として親しまれ、大阪の「天神祭」が7月25日に行われるのも、すべてこの数字に由来いたします。
そんなわけで、私は過日、福岡県にある全国天満宮の総本宮・太宰府天満宮にて神道講釈を勤めさせていただきました。2025年10月、永職会40周年記念事業の一環としてのお招きでございます。
今回の高座、私は先代が遺した『菅原道真天神記』をもとに物語るのではなく、太宰府天満宮に伝わる道真公の御物語を編み直すことにいたしました。
資料を読み込み、事前にお話しを伺う中で、私は天満宮には三つの系譜があることに改めて気づかされたのでございます。
一つ、京都・北野天満宮のように、道真公の御霊を鎮めるための「怨霊信仰」としてのお社。
二つ、大阪・道明寺天満宮のように、道真公が実際に訪れた「ゆかりの地」としてのお社。
三つ、福岡・太宰府天満宮のように、道真公が永遠に眠る「御墓所」としてのお社。
なぜ、これほど明快な違いに今まで気づかなかったのか。己の観察力のなさに愕然といたしましたが、同時にこの発見が、創作講談に命を吹き込んでくれました。まさに、学びながら物語る。ご依頼をいただける有り難さを噛み締めた瞬間でございました。
10月27日の朝8時、「朝からお越しください」との言葉に従い境内へ向かうと、多くの方が仮殿の前に集まっている。
太宰府天満宮の御本殿は、1125年式年大祭記念事業の一つとして、124年ぶりの大改修の真っ最中。その代わりに建てられたのが「仮殿」でございます。設計は、大阪・関西万博の「大屋根リング」を手掛けた建築家の藤本壮介さん。
この仮殿が、実に見事なのです。
道真公が大宰府へ左遷される際、京の庭で愛した梅の木が主人を慕って一夜にして飛来したという「飛梅(とびうめ)伝説」。
その物語を形にしたかのように、仮殿の屋根の上には豊かな森が広がっておりました。色とりどりの木や草が、空から舞い降りてきたかのような佇まい。他では見たことがない、誠に素敵な空間でございました。
この美しい仮殿を拝めるのは、本殿修復が終わる5月上旬まで。気になった方は、お急ぎ太宰府天満宮にお参りください。ちなみに、使命を終えた屋根の木々は、のちに「天神の森」へと移植されるとのこと。命をつなぐ設計の妙に、深く感銘を受けた次第でございます。
もう一つ驚かされたのが、毎朝8時半より行われる「朝拝(朝のお祓い)」でございます。
観光客も地元の方も、通勤通学の若者や園児までもが足を止め、手に紙を持って、その時を待っておられました。
手渡されたB3サイズの用紙には、力強い文字で「大祓詞」がびっしりと記されておりました。すべての漢字にルビがあり、誰もが参加できる優しい設計…と思いきや、読むスピードが滅法早い!
始まった途端、風を切るような速さで唱えられる「詞」。初見の私は、文字を目で追うのが精一杯。太宰府の人々の、身体に染みついた信仰の厚みを肌で感じたひとときでございました。
「次に伺うときは、一緒に声を揃えて読ませていただけるようになろう」
そう心に誓い、心地よい高揚感と共に楽屋へと入ったのでございます。
そこで私は、また新たな「素敵なもの」と出会うことに…。この続きは、また次回のお楽しみ。
◆四代目・玉田玉秀斎
玉田家は幕末、京都を拠点に全国で活躍した神道講釈師・玉田永教の流れをくみ、三代目玉秀斎は『猿飛佐助』『真田十勇士』『菅原天神記』『安倍晴明伝』などを世に広め、明治大正期の若者に大きな影響を与えた。四代目玉秀斎はロータリー交換留学生としてスウェーデンに留学中、逆に日本に興味を持ち講談師に。英語講談やヒーロー忍者講談、ビッグイシュー講談など新作講談を創作し、音楽演奏(ジャズ・アコーディオンなど)や文楽、吉本新喜劇、地域の伝統芸能とのコラボ公演も制作。永職会40周年記念事業として、神道講釈を各社で実施中。京都講談復興のため、京都劇場で「京都がたり」を定期公演している。2024年3月三重大学大学院修士課程「忍者・忍術学コース」修了。2025年秋、NHK朝ドラ『ばけばけ』怪談ばなし指導、FM大阪『天才的なバカになれ!』毎週日曜放送中。