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9月4日、マカロニえんぴつが下北沢SHELTERにてワンマンライブを開催した。
ライブタイトルは【10th Anniversary Live 『下北沢SHELTER』】。ライブの約2週間前に唐突に告知され、ファンを驚かせた今回のワンマン。振り返れば、マカロニえんぴつがミニアルバム『アルデンテ』でデビューしたのが10年前の2015年、そして、同年に初のワンマンライブを開催した会場が、今回の舞台となる下北沢のライブハウスSHELTERだった。10年越しにこの場所に戻ってきたマカロニえんぴつ。6月には約3万人のキャパの横浜スタジアムでワンマンを2デイズ開催、7月には東阪のビルボードライブでストリングス隊も迎えた特別セットを披露、そしてバンドの原点に立ち返ったSHELTERワンマン……と、2025年のマカロニえんぴつはかなりフレキシブルなライブ活動を展開してきている。この軽やかさと幅広さ、そして、本人たちの中にあるであろう「どんな会場でも、今のマカロニえんぴつに相応しいライブをしてみせる」という自信が頼もしい。
開演時間の20時を回って、お馴染みThe Beatlesの「Hey Bulldog」をBGMにステージに登場した、はっとり(Vo/Gt)、高野賢也(Ba)、田辺由明(Gt)、長谷川大喜(Key)、そして、サポートの高浦 “suzzy” 充孝(Dr)の5人。メンバーが登場するや否や、ぐわっと一斉にフロア前方に詰め寄る観客たちを、「まあ、落ち着け」と言わんばかりにはっとりが手でなだめる。しかしまあ、近い。とんでもない至近距離にマカロニえんぴつがいる。2025年のマカロニえんぴつが放つ大きな存在感がSHELTERのステージから溢れ出し、演奏が始まる前から僕らを高揚させる。
始まった1曲目は『アルデンテ』の1曲目でもある「鳴らせ」。逞しくエネルギッシュな演奏に乗せて、はっとりは<鳴らせ響くまで/ここにいるって>と高らかに歌う。ロックバンドの存在証明とも言えるこの楽曲がデビュー作の1曲目というのは、あまりに最高な話だ。演奏中、はっとりは「しもきたー!」と叫んだ。きっと、彼らのたくさんの勝利や敗北、たくさんの輝きや悔しさが沁み込んでいるこの街で、マカロニえんぴつは再び存在証明を奏でている。立て続けに長谷川の奏でる軽快なメロディが響き、「レモンパイ」へ。「一緒に歌える? 頼んだよ!」とはっとりは呼びかけ、観客たちはそれに熱狂的なクラップと合唱で応える。続く「ハートロッカー」でも大合唱。観客たちの日々に、心に、浸透し続けた歌の力を感じる。
スタジアムやフェスのメインステージ、あるいはZEPPのような大きなライブハウスでもマカロニえんぴつのライブを観てきたが、いい意味で、この日のSHELTERのマカロニえんぴつも、いつもと変わらないマカロニえんぴつだった。「スターになったバンドが街のライブハウスに降りてきたぞ」という不遜な態度なんて微塵もない。ただただ全身全霊でこの1本のライブを生き抜いて、目の前にいる観客たちと繋がろうとするロックバンドがそこにいた。したたる汗を光らせて、ひたすらに楽曲を信じて演奏し続けるバンドの姿がそこにはあった。そんな彼らの姿を観ながら、マカロニえんぴつの歌がどこから生まれるのか……その「歌の故郷」というべきものの存在を強く感じた。寂しくて、悲しくて、痛くて、儚くて、それでも温かくて、希望も期待も捨てることができない、そんな場所。出会って、小さく傷つけ合って、静かに許し合って……。そんな傷口から血が滲み続けるような日々を懸命に乗り越えながら生きている、若者たちの心の中。本気で生きようとすればするほどに人生は難しくて、いつもギリギリで、それでも「これは自分の人生なんだ」という確かな現実に向き合おうとする人たちの、尊い孤独。そんな場所からマカロニえんぴつの音楽は生まれている。その「歌の故郷」を捨てていないから、彼らのライブはいつどんな場所で観ても、等しく生きる力を与えてくれるのだと、この日SHELTERでのライブを観ながら強く感じた。
SHELTERの照明に照らされながらバンドが「ブルーベリー・ナイツ」を演奏する姿は、まるで未来都市を駆け抜ける恋人達の姿を映し出したSF映画のワンシーンのように幻想的でロマンチックだった。「悲しみはバスに乗って」や「忘レナ唄」、それに「然らば」のような最近の楽曲たちも僕らの至近距離で威風堂々と響いた。至近距離というのは物理的な距離という意味だけじゃなく、「心の距離」という意味でもそうだ。どの曲も5人のぬくもりに満ちたアンサンブルがあり、「人間」が歌われていた。リリースされたばかりの「静かな海」も披露された。この曲を演奏する前に、はっとりはこう言った――「“俺はひとりじゃない”と強く感じて、今年作った曲。メンバーへの信頼、自分への信用や自信もある。ずっと寂しさを抱えながら生きてきたけど、そういう部分を、みんなにもわかってもらえそうだと思ったから。そのくらい、みんなのことを信じられるようになった。そう思って作った曲です」。
もうひとつ、はっとりのMCで印象的だったのは、彼が「ライブハウスが苦手だった」と語ったことだった。他のバンドのようにわかりやすく盛り上がる曲があるわけでもないのに、それでも時代のムーブメントはより「盛り上がるロック」を求めるようになった。そんな中で「苦手なことをやっている」という意識が10年前のはっとりにはあったという。そうはっとりが語るのを、長谷川も頷きながら聞いている。はっとりは「ずっと探していたんだと思う、自分たちが本当に得意なことを」と語った。でもその上で、はっとりはこう続けた。「苦手だったけど、今日久しぶりにSHELTERの楽屋に入ったときに感じたのは、“嫌だなあ”という気持ちじゃなくて、“ここで頑張ってきたな”という気持ちだった。ここには対バンして刺激をくれた仲間がいたし、認めてくれる人もいた。たぶん、俺は緊張していただけで、ライブハウスが好きだったんだと思う。マカロニえんぴつは、ライブハウス経験がなければ、みんなと理解し合えなかったと思います」。全力でやり続けて辿り着いた未来は、過去すらも肯定するのだと、彼の言葉を聞きながら感じた。
「歌ってくれるか? 世田谷ヤングルーザー! この曲に出てくる居酒屋の<晩杯や>は、下北の晩杯やだぞ!」というはっとりの言葉に続き始まった「ヤングアダルト」でも合唱が巻き起こる。そしてライブの最後には、この時点ではまだリリースされていなかった新曲「いつか何もない世界で」が披露された(音源はこの日のライブ後、深夜0時に配信された)。この日リリースが発表された次のフルアルバム『physical mind』に収録されるという、胸のときめきが弾けるロックサウンドに昇華された1曲。<いつか嘘のない世界で/はじめての嘘をつこう>という最強のフレーズが耳に飛び込んできた瞬間に「名曲だ」と確信した。横浜スタジアムでのワンマンのラストに「静かな海」が初披露されたときも思ったが、きっといま猛烈に聴かせたいであろう新曲を、ワンマンの最後に用意しているマカロニえんぴつの真っ直ぐさが本当に愛おしい。そして、この曲でライブは終わりかと思って帰りかけたのだが、鳴り止まない拍手に応えて再びステージに戻ってきた5人。僕も慌ててフロアに戻り、熱気に満ち溢れるフロアで、ラストの「OKKAKE」を聴く。濃厚な密度の盛り上がりの奥で、とても静かな感動を味わいながら、切ないことも嬉しいことも含めて、大切なことをたくさん思い出した、そんな夜だった。
Text by 天野史彬
Photo by 酒井ダイスケ
◎公演情報
【10th Anniversary Live 『下北沢SHELTER』】
2025年9月4日(木)東京・下北沢SHELTER
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